不登校新聞

424号 2015/12/15

小児科医が語る自閉スペクトラム~二次障害を招かないために

2015年12月21日 11:48 by kito-shin
2015年12月21日 11:48 by kito-shin


 本日は「自閉スペクトラム」の理解を深めるとともに、支援のありかたについてお話したいと思います。
 
 「自閉症」や「広汎性発達障害」など、発達障害についてはさまざまな呼称がありましたが、一昨年、アメリカ精神医学会が作成する診断基準の改訂を受け、それらは「自閉スペクトラム」とひとくくりにされることになりました。こうした背景には、障害のとらえ方とライフステージの変化が大きく関係しています。
 
 私が小児科医になった1980年ごろは、障害のマイナス面に注目する考え方が一般的でした。
 
 たとえば、私が脳卒中で倒れて半身にマヒが残ったとします。階段の上り下りなど日常生活に支障があると、結果として外出の機会が減り、社会的不利が生じます。したがって、この場合の支援は「リハビリによって何とか元の状態に戻しなさい」というのが主流でした。
 
 それが2001年、大きく変わります。WHOが人間の健康状態の分類法として、「ICF(国際生活機能分類)」という基準を新たに採択しました。それにより、「障害を持って生きる」というプラス面に注目する動きへと変わってきています。つまり、「障害があるかないか」といった従来の固定的な捉え方から、「支援が必要か否か」というとらえ方に大きく変わってきているわけです。
 

診断名より大切なこと

 
 仕事柄、親御さんから相談を受けることも多いのですが、最近は診断名をほしがる人が増えてきたように感じます。個人的には「診断名なんて、たいしたことではない」って考えているんですよ(笑)。
 
 なぜなら、本人がどういう特性を持ち、何に困っているのかを明らかにし、どんな支援が必要かを具体的に示すことが、もっとも大切なことだと考えているからです。「注意欠陥/多動性障害」や「自閉症」という診断名は、その方向性を決める取っ掛かりにすぎないんです。
 
 というのも、「自閉スペクトラム」のスペクトラムとは「連続体」という意味です。虹を見たとき、「赤から紫にいたる色の境目はココだ」というように決められませんよね。同様に「自閉症はこういう子ども」というように、紋切型に当てはめることはできないんです。ですから、子ども一人ひとりに合わせた対応をしないと何事もうまくいきません。それどころか、うまくいかないという苛立ちから、親が子どもに手を挙げてしまうなんてことも起こりえますし、ひいてはそれが虐待につながってしまうかもしれません。
 
 小児科医の仕事というのは、そうした悲劇を起こさないために、親御さんへの理解をすすめるとともに、具体的な関わり方を知ってもらうことだと思っています。私がふだん取り組んでいる「療育」という分野では、「子どもをどうやってなおすか」という発想には立ちません。その子に合ったオーダーメイドな育て方の提案をしていくこと、これが「療育」の根底にある考え方なんです。
 
 また、子育てについて悩まれている親御さんも多いと思います。子育てにおいて大事なことは何かと言えば、親が持っている知識や経験をどうやって子どもにも身につけてもらうか、だと思うんです。その際に気をつけることは「親が答えを言わないこと」です。親が先まわりして答えを出し続けるかぎり、子どもは自分で考える機会をどんどん奪われていきます。しまいには、次に何をしたらいいか、答えを待つ子になってしまいます。
 
 私は「どんな大人になってほしいですか」とよく親御さんにたずねるんです。「自分の頭で考え、判断し、行動できる大人になってほしい」というのは、たいていの親御さんに共通する願いでしょう。であるからこそ、答えを言ってはいけない。ヒントを出し、子どもが自分で答えを見つけるようにサポートしてあげるわけです。
 
 こういう関わり方をすると、親子関係も変わってきます。子どもを怒らなくてすむようになるからです。「何べん言ったらわかるの」と子どもを怒ったことはありませんか? 親の思い通りにいかない苛立ちですよね。でも、ヒントを出すだけに留めたらどうなるか。子どもは自ら考えて答えにたどり着こうとします。子どもが自らの能力を活用して取り組んでいるわけですから、親としては素直に子どもを褒めてあげられますよね。褒めるというのは、なかなか難しいですからね。こういう関係性のなかで褒められた経験が増えていけば、それはおのずと子どもの自己肯定感にもつながっていくでしょう。



合理的配慮 どう考えれば

 
 現在、福祉だけでなく、教育の分野でも「合理的配慮」という考え方が大きな注目を集めています。2016年4月から、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」、いわゆる「障害者差別解消法」が施行されるからです。この法律では行政に対し、障害に配慮した対応をする義務があると規定していますから、公立学校では今後、個々の事情に応じた取り組みが求められることになります。親御さんと学校側とのあいだで折衝する機会も増えるかと思いますので、どういうふうに話を持っていくのがいいか、コツをかんたんにご紹介します。
 
 まず学校の先生と話すときは「『障害者差別解消法』という法律が来年4月から施行されることはご存知ですよね?」と聞きます。
 
 だいたいの先生はそんなこと知りませんから、「不勉強ですね」というニュアンスを暗に匂わせておきましょう(笑)。
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