不登校新聞

319号(2011.8.1)

ひきこもり著者対談 芹沢俊介さん×勝山実さん

2013年12月17日 15:13 by kito-shin
2013年12月17日 15:13 by kito-shin
 今号は、評論家・芹沢俊介さんと、ひきこもり名人・勝山実さんの「ひきこもり著者対談」を掲載する。評論家と当事者、立場はちがえども長きに渡って「ひきこもり」と向き合ってきたお二人に、おたがいの著書の感想を踏まえながら、お話いただいた。

――まずはお二人が考える「ひきこもりの定義」についてお聞きしたいと思っています。

芹沢俊介(以下・芹沢)
 「ひきこもりの定義」として、一般的に言われるのが社会的ひきこもり論です。20代後半までに問題化し、6カ月以上、自宅にひきこもって社会参加をしない状態が持続しており、精神障害がその第1の原因とは考えにくいもの。この社会的ひきこもり論は大きな問題をはらんでいて、私はそれをどう解体するか、というテーマを持っています。それが『「存在論的ひきこもり」論』で、すこしはできたかなと思っています。
 
 結論だけを言えば、人間というのは「ある自己」と「する自己」の二重性として存在しています。「ある自己」は、あらゆる環境や人間関係において「安心かどうか」のセンサーを働かせています。そのセンサーが「この場所はNOだ、自分は居られない」と判断したら、ある自己はその場から撤退しようとします。そうなると「する自己」は機能しなくなる。これが私のとらえたひきこもることの原イメージです。つまり、ひきこもりは初発において防衛行為です。あたり前ですが、人は「ここが安心できる」と思えて初めて何かができる、つまり「する自己」が機能するわけです。


評論家・芹沢俊介さん 

誰もが日常的に「ひきこもる」と「出る」をくり返している


 そう考えると程度の差こそあれ、だれもが日常的にひきこもったり出たりしているわけです。ひきこもることはノーマルな行為だというのが、私の考えです。
 
 一方、考えなければいけないのは「どういう状態ならばひきこもりなのか」という問いそのものです。哲学者・フーコーは「状態というのは異常の台座だ」と指摘しました。
 
 「状態」というとらえ方は、ニュートラルなとらえ方でなく、ある眼差しが向けられている。人間はさまざまな状態を見せるわけですが、そのうちの「ひきこもってる状態」だけを抜き出して分析し定義を付ける。そのこと自体がすでにひきこもりを異常視し、その人全体を見渡せなくなっているのではないでしょうか。

ひきこもりとは「納得ならないものから降りた人」


勝山実(以下・勝山)
 私が考えるひきこもりの定義は「自分には納得ならないものから降りた人」です。将来どうするんだ、こんなことしたらホームレスになるぞと脅されても、どうにもしっくりこないという、ぼんやりとした、みよ~に強い意志で途中下車してしまった人がひきこもりじゃないですか。

――ひきこもりにとって必要な支援とはなんだと思いますか?
芹沢 一般的に言われるひきこもり支援は、社会的ひきこもり観に則ったバイアスがかかっているように思います。ですから支援する一人ひとりの顔はちがっても発想はいっしょ。「無力なひきこもりを何とかしよう」という発想以外のものがなく、支援は、はたして必要なのかという問いもない。
 
 しかし、「存在論的ひきこもり観」に立てば「支援はいらない」と考えるのが自然です。ただ当事者が求めている支援もいらない、ということではありません。

勝山 もし支援をしてくれるのなら、直接支援にして欲しい。とくに生活のためのお金。ひきこもりの当事者が、学校に行かなきゃ、働かなきゃの呪いから解放されたとしても、ブックオフに行くバス代すらない。高齢者や障がい者が持っているような、福祉パス券を配布してくれればなって思うんです。世の中には「ただでさえ混んでいるバスにひきこもりが乗ったら迷惑だ」と考えている人がいるかもしれませんが、それはない。ひきこもりはラッシュ時にバスなんか乗らない。本当はベーシック・インカムのような無条件で、誰にでもお金を出す仕組みがいいのですが、そう言うと働いている人が「損をする」と、みなさん怒っちゃいますからね。


ひきこもり名人・勝山実さん

――勝山さんは『「存在論的ひきこもり」論』を読んでどんな感想を?
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