不登校新聞

315号(2011.6.1)

メンヘル時代の居場所論 当事者インタビュー(下)

2015年08月10日 11:48 by kito-shin
2015年08月10日 11:48 by kito-shin
 
 引き続き、私が関わっている若者の居場所コムニタス・フォロのメンバー、野田彩花さんへのインタビューを掲載する。(山下耕平)

異星人同士が同居するには


――親との関係でも、ずいぶん葛藤がありましたね。
 「こんな自分でいい」となると、今度は親との価値観のズレが見えてきて……。親も、ハッキリとは言わないけど、自分の価値観に従ってほしいと思っているし、私も家族を自分の価値観に引き入れたいと思っている。「どうして認めてくれないの」というバトルがバーンと起きて、1年くらいはバトルしてましたね。

 私にとって母は、いなくなったら世界が崩壊してしまうような、そういう存在でした。世間から認められていないのだから、母から捨てられたら生きていけない、そう思ってきた。

 ある日、ものすごい大ゲンカのはてに、母から「あなたは私を傷つけようとして傷つけているでしょう。悪意がある。もう私に話しかけないで」って言われたんですね。そのとき、ものすごく、「切られたな」という感じがした。でも、そのとき、フォロのメンバーの何人かにメールして、いろんな人が、いろんなことを言ってくれて、ある人は、1日いっしょにいてくれた。

 それまで母がいないと生きていけないと思っていたけど、私のすべてを受けいれてくれる母は、そのときに死んだんですね。でも、私はちゃんと生きている。「お母さんがいないと生きていけない時代は終わったんだ」って思いました。そこまで来たんだと、否が応でも自覚した。母が自分を抱きしめてくれなくても、自分で自分を抱きしめるしかない。その1日は、そういう転機でした。大きかったのは、そこで、私を受けとめてくれる友人がいたことです。

――その後、家族とは?
 いまも、異星人どうしで同居しています(笑)。でも、異星人どうしでも、いっしょに暮らすことは可能なんですね。あるとき父に「私が何考えているかわからないでしょう?」と言ったら、「まったくわからないけど、いっしょにご飯食べられたらいいんだ」って。私のほうも、親が異星人であることが苦痛でなくなった。いまは、親との関係でそんなに苦しむことはなくなりました。どうしてもガマンできないときは、自覚的に親に八つ当たりしてます(笑)。

ままならなさ難しさ…


――フォロでも、難しい面は多々あるでしょう?
 ほんとうに……。最初の2年くらいは「バンザイ状態」でしたけど、だんだん難しさも見えてきました。人間の、ままならない部分、難しい部分……。

 たとえばトラブルがあったとき、どうして、そうなっちゃうのって思うことがあります。人間って失敗してしまうことはある。私自身、そういうことがあるし、それが許される関係であってほしい。言いたいことをおたがいに言って、それで気まずくならない。異星人どうしでも同居できること。それが、こういう居場所でも、すごく難しくなってきているように思います。

 人間関係で傷つくことって、ままあるし、基本、人間関係ってめんどうくさいものですよね。どこかで腹をくくらないとやっていけない。みんなちがうことを考えているし、みんな異星人なんだから、いっしょにいようと思ったら、工夫も必要だし、折り合いをつける必要もある。

――個々の関係でも難しいことはありますよね。
 自分のことは自分で抱きしめるしかないんだけど、それを人に求めてしまって、それができないとなると、その人を敵みたいにしちゃう……。相手の存在を肯定したいけど、相手の抱きしめてほしいというニーズをへんに受けとめてしまうと、とても危ないことにもなると思います。そこは、やっぱり工夫が必要だなと思います。

 他者を他者として尊重することの難しさ。それは、ほんとうは相手を理解することにつながるはずなのに、それがどうして、こんなに難しいんだろうって。

――自分のなかでの工夫は?
 う~ん……譲歩とガマンはちがうんだって気づいたことがあります。譲歩って自覚的に譲ることだと思いますけど、ガマンは知らないうちにしている。いつのまにか、自分がガマンすれば丸くおさまると思ってる。でも、ガマンしていると、それはバクハツにつながってしまう。だから、「んっ?」と思ったとき、これは譲歩なのかガマンなのか、自分に聞いてみるようにしてます。

 それと、めげてもいいんだなって思うようになりました。関係が大事だからって、「放り出してはいけない。責任を持たないと」なんて思っていると、カチンコチンになってしまう。人間って固体じゃない。流動的なもの。どろどろして、つねに入れ替わっていて、でも、かたちとしては固体を保って存在している。この不思議さ。だだ漏れでも困るけど、カチンコチンに固められても困るし……この感覚を、言葉にするのは、とても難しいです。

ちがうと言えること


――フォロに自分を合わせなければと思ってしまうことは?
 それはありますね。「こういう考えはフォロのコンセプトと外れるから言っちゃいけない」って勝手に自粛してしまったり、私だけじゃなくて、山下さんやフォロへの批判があっても、なかなかみんなの前では言えなくて、後から、「ここだけの話」で出てきたりする。それを、ちゃんと場に出していく必要があると思います。ちがうと思ったことを、ちがうと言えること。でも、ちがうと気づくまでに時間がかかったり、言うのにも勇気が言ったり……それも難しさのひとつですね。

――力関係はどうしても生じてしまうなと自戒してます……。
 山下さんに対してだけじゃなくて、メンバーどうしでも、相手への批判って言いにくいですよね。相手がどう受け取るか、すごく心配だけど、でもやっぱり、基本、言いたいことは伝えないと。それと、それを自分が聞いたとき、ふつうに反省しないとなって思います。「こんな自分ってウツ」とか、そういう自己卑下はいいから、ふつうに反省しようって、私も自戒を込めて思います(笑)。

――僕自身、まちがうことも多々ありますし、そういうときは「ごめんなさい」って言うしかない。あらかじめ正解を持っているわけじゃないし、いっしょに考えましょうって感じです。
 そうですよね。私自身、居場所の「利用者」にはちがいないんだけど、いまは、むしろ「居場所に関わる人」という感じですね。これからも、いろいろ悩むし、ワーッとなることもあるかと思いますが、よろしくです。

――いえいえ、こちらこそ(笑)。ありがとうございました。(聞き手・山下耕平)



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