今回お話を聞いたのは、一般社団法人「そよ風の手紙」代表理事の新保浩さん。自閉症児の父として、支援者としての思いをうかがった。
――著書で「私は根っからの楽天家だ」とおっしゃっているのが印象的です。
いいえ、じつはそうでもない時期もあったのです。ひとり息子のりょうまが3歳のとき、重度の知的障害を伴う自閉症と診断されました。気持ちの面で言えば、この時期がどん底であったと思います。「自閉症って、いったい何なのだろう?」というくらい知識のない時期には、「大丈夫、私が治してみせる」と思ったこともありました。でも、調べれば調べるほど自閉症が一生治ることのない障害だと知り「息子は私がいなくなったあと、どうなるのだろう」と悲観する時期もありました。とくに息子が小学生低学年のときには、多動で片時も目を離せなかったのです。今こうしてわれわれ親子が明るくすごせているのも、今まで出会った多くの方々の支えがあったからです。もし、一人で抱えていたとすれば、あらゆる不安に押しつぶされていたかもしれません。
就労できる?親の焦りと不安
――将来への不安というお話がありましたが、「就労」もその一つとして大きいのではないかと思います。
残念なことに、今の世の中、就労していない人は存在価値がないという偏った考えを随所で感じることがあります。そのようななか「将来うちの子は就労できないのではないかと不安です」という相談をよく受けることがあります。でも、思うのです。はたして、就労が人生の目的地なのかと。
特別支援学校や支援学級では、就労を見据えたプログラムを小さいうちから実践しようという動きがあります。
わが子の将来に焦る親の気持ちは痛いほどわかります。しかし、就労をゴールに据えてしまうと、達成できたかできなかったかという一点で子どもが評価されることになってしまいます。
一口に障害と言っても個人差がありますし、支援や教育を受けた子どもすべてが就労できるとはかぎりません。当事者ご本人が選択をされて就労されることは素晴らしいことです。では、そのレールに乗れなかった子どもはダメなのか、努力不足だったのかというと、それはちょっとちがうと思うのです。
障害があってもなくても、あなたが生きていること自体に意味があるということ。みんなが笑顔で生きていくためには、この視点こそ大事にしなければならないのではないかと思うのです。
今年で22歳になる息子は、現在就労しておりません。月曜日から金曜日まで通所施設に通い、作業をして笑顔で帰宅する姿を見て、就労のみがすべてではないと感じるのです。そうした大切さを教えてくれたのは、他の誰でもない息子だったのです。
――新保さんは母親への支援の重要性を一貫して訴えていますね。
母親へのレスパイトケア、これが欠かせないと思っています。
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