不登校新聞

313号(2011.5.1)

自閉症スペクトラムを考える 小道モコさん・講演抄録

2013年06月24日 15:52 by kito-shin
2013年06月24日 15:52 by kito-shin
 3月に高知市内にて、NPO法人 登校拒否・不登校を考える全国ネットワークの主催で行なわれた学習会の講演抄録を掲載する。テーマは「発達障がい・自閉症スペクトラムを考える」。講師は小道モコ さん、30歳をすぎてから「自閉症スペクトラム」と診断された。当日は、自身で描かれたイラストをもとに、小道モコさんの学校生活における体験を中心に話が進められた。

大人に認められ、ほめられたこと 育ちの原動力に


 私が「自閉症スペクトラム」(発達障害)という診断を受けたのは、30歳をすぎてからでした。

 それまで「私はちょっとほかの子とちがうのかな」とモヤモヤしながら暗闇を歩いているような感じでしたが、「自分の特性を知る手がかり」をつかんだような気がしました。暗闇を歩いていることに変わりはないけれど、時計や懐中電灯を手にいれたようで、自分が進むべき大まかな方向が見えたようでした。

 「自閉症スペクトラム」には「忘れられない障害」という特性があります。たとえば学生時代を思い出すとき、一般的には漠然と掻い摘んで思い出すことが多いと思います。

 しかし、「自閉症スペクトラム」の人たちは思い出し方がとても鮮明なんです。私の場合、そのときの空気感や温度、においといったことまでリアルに思い出します。ですから、痛みや悲しみを伴う経験は、つい昨日の出来事のようで非常につらくなることがあります。逆に、子どものころに楽しかったりほめられたりしたことは、いまの私の生活においてもとても大切な支えになっています。

 今日は「私にとって学校がどのような場所だったのか」というテーマについてお話したいと思います。

学校はジャングルだった


 一言で言えば、私にとって学校は「ジャングル」でした。いつ、どこで、何が起きるかわからないし、先生の言動の目的や意図もわからないことが多い。まるで毎日が冒険のようでした。これは「漫然とすごすことができない」という私自身の特性によるものだと思います。

 たとえば朝礼のとき、ほかの子どもたちはきちんと列に並んで校長先生の話を聞いていられます。私にはそれができません。「なんでいま、そんな話をしているのか」「この話がいつまで続くのか」など、いろいろなことが気になってしまうんです。それ以外に授業中でもホームルームの時間でも、いつも不安で、「国語をやるって誰が決めたの?」とか「○○したいんですけど、やっていいですか?」とか、その時間に関係ない事柄も含め、しょっちゅう先生に質問していました。

 不安を解消して学校をもっと好きになりたかったからなのですが、先生にはきちんと伝わらず「まぁ、いいから座ってなさい」と言われてしまう。「『まあいいから』ってどういう意味だろう?」って思いながら質問を続けていると、「いつまでそんなことを言っているの」と、先生を怒らせてしまうなんてことも多々ありました。



場に居たいから"質問”をする


 ですから、学校生活は何が起こるかわからないジャングル以外の何物でもなく、いつも緊張していた私は、大人の目に「落ち着きがない子どもだな」と映っていたんだろうと思います。

 いま、「自閉症スペクトラム」と診断された子どもたちと、英会話を通じて関わり始めて15年以上が経ちました。なかには私と同様、脈絡のない質問を投げかけてくる子どもがいます。しかし、その子は「私を困らせてやろう」と意地悪をしているわけではありません。ここに居たいから、「何でそうなるのか」という理由や目的を純粋に知りたいだけなんです。

 また、そのほかの特性として「感覚過敏」というものがあります。私も周囲の物事一つひとつに反応し、目や耳から入る情報について、何が必要で不必要なのかを取捨選択しきれずに無意識にどんどん拾ってしまいます。ほかの人より疲れやすいというのは、そういったことが影響しているのだと思います。

 さまざまな情報が飛び交っているというのは、学校の授業も同じです。先生の話を聞いて、教科書を読んで、板書を写すというように、「聞く・読む・書く」という作業を同時進行で行なわなくてはいけません。この「複数のことを同時進行で行なう」ということは、私にとって非常に難しい作業でした。

 たとえば、国語の時間。机の上には教科書、ノート、筆記用具、漢字ドリルなどいろいろなものがあります。授業で使う物をあらかじめ出しておくというのは効率的な方法ですが、私の場合、目で見たもので考えているので、机上にいろいろあると「いま、私は何をしなければいけないのか」ということがわからなくなってしまうんです。

 板書を写すときは黒板とノートだけを見ていたいのに、教科書や漢字ドリルなどが視界に入ってくると、どんどん集中できなくなってしまう。つまり、私にとって理想的な状況というのは、「いま自分が見えている物によって、やるべきことがわかる」ということなんです。

 ですから、授業中でもホームルームでもきちんと前を向いて席に座っていましたが、先生の話はほとんど聞いていませんでした。理解しようとすれば質問攻めをしてしまうし、静かに座ってさえいれば先生には怒られませんから。ただ座っていればいい、ということをどこかで学習したんだと思います。

 そのせいか、私は学校で物を習ったという記憶があまりないんです。座る練習の場だったという感じです。いま思えば、私にとって学校とは何のためにあったのかと考えたりもします。

 学習の中身ひとつをとっても、幼稚園と小学校では大きく異なります。幼稚園のころは自由に何を書いてもほめられたのに、小学1年生になると平仮名の練習があります。すると今度は「まちがい」というものが出てくる。そこで初めて、消しゴムが必要になるわけですが、学校では「書く練習」には時間を費やすのに、「消す練習」というのはほとんどやりません。

 字がきちんと消えてなくて、書き直したときに同じミスをしてしまうということ、みなさんも経験があるかもしれません。そのミスは、自閉症スペクトラムの子どもにとって非常につらいことだと思います。消しゴムで消す作業がつらくなくなれば、まちがうことへの抵抗感が薄れ、字を書くこともさほどイヤではなくなるんじゃないかと思います。

 消しゴムの使い方一つにここまでこだわるなんて大げさに思われるかもしれませんが、私にとっては筆記用具に対するこだわりが学習意欲につながったといっても過言ではありません。エンピツも4Bなどの濃いものを使えば、力まずとも字を書くことができるということは、私にとって重要な気づきでした。

学習意欲の問題なのか 


 落ち着きがなく、学習に意欲的に取り組めないという子どもの話を聞くたび、「イスの高さ、エンピツの濃さ、消しゴムの硬さ、机の上に物がありすぎる」といったことが原因ではないかと考えてしまいます。学習へのモチベーションうんぬんではなく環境要因、つまり本来ならば飛ばなくていいハードルが積み重なっているがゆえに集中して取り組めないケースが多いのではないかと思うんです。


 「自閉症スペクトラム」の子どもたちと関わるみなさんに知っておいてほしいのは、「○○しながら××できない」、「目の前にある情報で物事を考える」ということです。こうしたことを知ってもらえているか否かで、子どもの学び、育ちにとても大きな差が出てくると思います。最初は小さな差でも、大人になれば広がっていきます。大きくなってから、その子がどこでつまずいているのかを探すのはたいへんな労力を要します。その角度の狭いうちからまわりが気づいてあげることが重要だと思います。

寄り添ってくれる存在が、毎日を楽しい冒険にする


 最初にお話したように、過去の記憶を鮮明に思い出せるということは、ポジティブな記憶が大きな意味を持ちます。大人に認められたり、評価された経験が多ければ多いほど、子どもたちが興味関心があることに向かって羽ばたいていく原動力につながっていくと思います。

 大人になったいまでも、あらゆる情報を得てしまう私の性格は非常に疲れやすく、悔しい気持ちになることもしばしばです。やりたいことがたくさんあるのに、うまくできないわけですから。そんなとき、ふと思います。たとえ暗いジャングルだとしても、「あなたのことを気にしているよ」っていうメッセージを投げかけてくれる人がつねにそばにいる。その存在を自分の肌で感じることができるならば、毎日がとても楽しい冒険の日々になると思います。それが子どもであればなおさらです。

 最後に、私は自分の視点からでしか見ていないのでうまくお伝えできないかもしれませんが、「自閉症スペクトラム」の脳を持った私から見えるこの世界はとてもおもしろいです。

 だからこそ、「私にはこんな風に見えてるんだけど、あなたはどう?」というように、いろんな人に聞いて歩きたくなります。ですから、みなさんが私に似たような人に出会ったとき、今日の話を少しでも思い出してもらえたらうれしいです。(講演抄録)

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