なぜ「人格障害」は増えたのか
精神科医・高岡健さんに「人格障害」を中心として、その社会的背景、医療にできることは何か、居場所など医療以外の場でできることは何かなどの話をうかがった。
――精神疾患は軽症化とともに蔓延化してきたと聞きますが。
統合失調症をはじめとする精神疾患は、日本では1970年代から軽症化してきたと言われています。これには社会構造の変化が影響しています。
マクロな視点から言えば、そもそも統合失調症(以前は精神分裂病)の概念自体、1890年代に登場してきたもので、100年余の歴史しかないものです。1890年代というのは、工業が軽工業から重工業に変わる時代で、この時代に精神病院が巨大化した。つまり、重工業に適応できない人を巨大精神病院に収容していったんですね。いわば、ギリギリまでガマンして、ガマンしきれなくなった人が精神病と診断され、医療の対象となった。
ところが1970年代以降というのは、世界的に第3次産業の時代になった。そうなると、ギリギリまでガマンしなくても、社会のなかで、それなりにちょっと変わった人として生きていける。社会が複雑化、産業構造が高度化していく時代というのは、意外かもしれませんが、統合失調症の人にとっては、かえって生きやすい時代なんですね。それは、たとえば、うつ病や双極性障害についても言えます。ギリギリまでガマンしなくてもよくなった。そういうなかで、精神疾患は軽症化していったと考えられます。また、軽症のうちに精神科を受診しても、以前ほどは排除されないということもあるでしょう。
――しかし、一方で、抗うつ剤を飲む人が急増していたり、きつさも感じます。
たしかに、うつ病の場合、ちょっと気分が落ち込んでいるだけで安易にうつ病と診断されて、抗うつ剤が大量投与されているという問題はあります。うつ病概念があいまいになって、過剰診断、過剰薬物投与が広がっているのは問題です。
そもそも、人間というのは、軽いうつ状態、ちょっと沈んでいるくらいが、ちょうどいい。はしゃいでいる人ばっかりだったら、うるさくて仕方ないでしょう(笑)。しかし、今はそれが許されない。これは、成果主義の弊害でしょうね。軽い躁状態でないとできないようなことが、できて当たり前だとされている。そこで軽躁状態になれない人が精神科に行っている。
読者コメント