安田祐輔(ゆうすけ)さんは、発達障害、家庭内暴力、不登校、ひきこもり、うつ病などを経て2011年、「もういちど勉強したい人」のための個別指導塾「キズキ」を立ち上げた。取材企画者でひきこもり経験者のゆりなさんと、本紙スタッフ・茂手木涼岳が、安田さんの生い立ちや「キズキ」立ち上げの経緯などをうかがった。
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――安田さんの生い立ちから聞かせてください。
小学生のころからとにかくドンくさくて、まわりからイジメられていました。一方、家庭内でも父から僕と母は暴力を受けていました。母は過度のストレスから情緒不安定になってしまうなど、家庭環境もとても苦しかったんです。
中学でもイジメられて不登校になり、その後、不良になった僕は、高校生のときに「自分の運命を変えたい」と思い、一念発起して受験勉強をはじめました。
大学を出てからは大手企業に入社するんですが、またもドロップアウトしてしまいます。入社からわずか4カ月でうつ病になって休職、その後退職してしまうんです。
その後、立ち上げたのが、個別指導塾「キズキ」でした。
――立ち上げる際に、どんな思いがありましたか。
初めはただ、「食っていかなきゃな」という思いでした。当時はリーマンショックのあとだったから、入社後すぐに退職した僕には転職先なんてありませんでした。
それでも生活していかなきゃいけないから、自分で仕事を立ち上げるしかなかったんです。でも、どうせやるなら、社会のなかで弱い立場にある人たちの尊厳を守るような仕事がしたいと思いました。
僕自身がたいへん苦しいなかで生きてきましたし、大学生のときにバングラデシュやパレスチナに行って、壮絶な状況のなかで生きている人をたくさん見てきたからです。
自分は何をするべきなのか
ただ、「弱い立場の人のために」と言ってもなかなか難しいことがあります。
たとえば「バングラデシュの経済発展に貢献したい」と思ったとします。でも経済というものは僕がどうこうしなくても勝手に発展していくし、発展すれば幸福になる人も出てくるけど、不幸になる人だってたくさん出てくるんですね。
だから経済発展は本当に正しいことなのか、疑わしい面もあるんです。
そんなことを大学生時代も会社員時代もずっと考えていました。そして「自分は何をするべきなんだろう」と悩んでいたとき、出会ったのが政治哲学者・ロールズの考えです。
かんたんに言うと「社会のなかで一番キツイ状況にある人をちゃんと底上げしていく社会が、一番正しい」という発想。これが自分にはとてもしっくりきました。
そして自分自身の生い立ちや海外で見てきたことをふまえて、人生のレールからドロップアウトしてしまった人でも、何度でもやり直せる、そんな社会をつくりたいと思うようになりました。
そのなかでも、学校からドロップアウトした人の力になればと、「キズキ」を立ち上げました。
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