文部科学省の有識者会議(座長・森田洋司氏)は10月11日、「いじめ防止対策推進法」の基本方針をまとめた。地方公共団体および学校はこれをもとに、それぞれ基本方針を策定することになる。
発表された基本方針のなかで特筆すべきは2つ。①いじめの「重大な事態」を定義したこと、②重大事態が発生した場合、学校側の説明責任を明確化したこと、だ。
重大事態とは、▽自殺を図る▽身体や金品などへの重大な被害▽精神疾患の発症▽不登校になる、などが該当する。
また、児童生徒や保護者から「いじめにより重大な事態に至った」と訴えがあった際には、教育委員会や学校の認識の程度にかかわらず、重大事態が発生したものとして、適切な調査を行ない、情報開示する義務があると明示した。結果、個人情報保護を理由にいたずらに説明を怠るなどの対応は今後許されなくなる。
とくに、いじめにより児童生徒が自殺に至った場合、学校側の調査や遺族に対する説明が不十分との理由から裁判に至る例も少なくない。いじめ被害者の「知る権利」に関する方針が示されたことは大きい。
いじめによる不登校、目標は再登校に限らず
一方、いじめで不登校になった場合も、重大事態に当たる。児童生徒への対応をどう考えているのか。文科省担当者は「いじめで不登校になった児童生徒への対応の目標は、再登校のみを考えているわけではない。子どもの状態や気持ちを無視した対応は許されない。いじめが絡んだ不登校、自殺など、対応後の目標をどう定めるかについては来年度も含めて検討していきたい」とコメントした。
法律と基本方針 現場への影響は
今回、国が策定した基本方針をもとに、地方公共団体および学校は各々いじめ防止対策に関する基本方針を策定することになる。
いじめ対策に取り組む組織の設置についても、地方公共団体は任意である一方、学校は必須となる。学校に設置する組織は、当該学校の教職員のみならず、心理・福祉分野の専門家も交える。それらを踏まえ、今後は組織自体の中立性や公平性をどう担保していくかが課題の一つだ。国としては今後、「いじめ防止対策協議会」を設置し、効果的な対策が行なわれているか否かの検証を行なうとしている。
いじめ防止対策 市民側の動きは
行政がいじめ防止対策に本腰を入れ始めた一方、市民側から新たな動きも出ている。「ストップいじめナビプロジェクトチーム」だ。弁護士、ジャーナリスト、自殺対策の専門家など、さまざまな分野でいじめに取り組む専門家が集まり、昨秋から活動を始めた。現在はNPO法人格を申請中だ。
事務局長・須永祐慈さんは自身、いじめを機に、不登校・ひきこもりを経験した。「法律はあくまできっかけにすぎません。いじめについては、NPOや人権派の弁護士などが各々のフェーズで取り組んできました。学校関係者のみがいじめ対策にあたるのではなく、外部の資源も取りいれながら、できることを一つずつ積み上げていく。今後はそうした作業が本格的に求められます」と語る。
同チームは「ストップいじめ! ナビ」というホームページを通じ、相談先の一覧などを載せている。今後、いじめ対策の効果的な取り組みに関する情報収集とその公開や、いじめ防止キャンペーンなどの活動を展開する予定だ。(小熊広宣)
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