不登校新聞

294号(2010.7.15)

いのちとはなにか「寄生虫博士・藤田紘一郎さんに聞く」

2013年12月17日 16:42 by kito-shin
2013年12月17日 16:42 by kito-shin
 今回の連載「いのちとはなにか」は、やや趣向を変えて寄生虫博士・藤田紘一郎さんを、子ども若者編集部のメンバーとともにインタビューした。寄生虫研究から見える「いのち観」とはどんなものなのか。藤田さんには、寄生虫研究を始めたきっかけからお話しいただいた。

――なぜ寄生虫研究をされようと思われたのですか?
 もちろん僕も最初から寄生虫の研究をしようとは思っていませんでした。私が育ったのは三重県多気郡明星村(現・明和町)というド田舎です。というのも、オヤジが国立結核療養所の所長をしていましてね。昔の結核療養所というのは、周囲から隔離された田舎に建てられていたんです。オヤジは自分の稼ぎを全部自分で使っちゃう人で、家にはテレビも車もない。しかも僕ら男兄弟にはヤギやニワトリの世話なんかを全部押しつけちゃうメチャクチャなオヤジでした。なので動物の世話など自然を相手にしていることが多い環境でしたね。チョウチョを捕ったり、ドジョウを捕ったり……、白菜の切り株なんてのは、けっこううまいんですよ(笑)。

 そういうなかで育ったんで高校生1年生ぐらいまでは、まったく勉強をしませんでした。成績も後ろから数えたほうが断然に早いぐらい。ところが、パッとまわりを見たら、みんな農家の子どもだってことに気づいたんです。つまり、友だちは勉強ができなくても、将来は農家を継いで暮らしていける。けれども自分にはなにもない。「勉強しなきゃ死ぬ」と思ってガリ勉をしました(笑)。ガリ勉と言っても本当の勉強じゃなくて、受験のための暗記勉強ばかりです。その結果、大学に入ることができました。

 その大学生のときに、たまたま熱帯病調査団の団長先生とトイレで出会ったのが"ウン”の尽きで(笑)。調査団のカバン持ちとして奄美大島や沖縄の波照間島に連れて行ってもらいました。

 行ったらビックリしましたよ。ある村では5人に1人がフィラリアにかかり、象皮病を患っていたんです。フィラリアは蚊を媒介にして人や犬に伝染する寄生虫です。フィラリアが人体に生息した場合、陰嚢がちゃぶ台みたいにでかくなるなどの症状が出ます。当然、奇異な目で見られるため、フィラリアにかかった人は、人里離れた山奥でひっそりと暮らすしかありませんでした。すごく恐い病気だと思いましたし、こんな深刻な事態があるなんて誰も教えてくれなかったことにも驚きました。

 その島で私がやったのは、ボウフラや蚊を獲ってきて調べること。それがけっこうおもしろかったんですね。それと調査団の先生からも「お前は不器用だから医者をやるより寄生虫研究をしたほうがいい」と言われたことも、その気になるきっかけでした。でも「寄生虫の研究をする」と親に伝えたときには、親から反対されましたけど(笑)。

――寄生虫の魅力というのは?

 最初はみなさんと同じように気持ち悪いな、恐いなと思ってました。でも、調べているうちになんとなく愛着が沸いてきたし、この文明社会のなかでよくこんな生き物が生き残ってきたなと思い始めたんです。

 病気から人間を守っている「免疫」という言葉を聞いたことがありますか。人間の免疫というのはすごく厳格な仕組みになっていて、おたふく風邪やはしかに二度かかることがないのです。病気のウィルスというのは、すごく小さくてぜったいに肉眼では見えません。そういう微細なウィルスの侵入を二度は許さないわけですからね。

 ところが、ウィルスよりも何倍も大きな回虫は何度でも人体のなかに入ってきます。不思議だな? と思い、ハマっていきました。


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