32年間、わたしが教員として勤務した2つの職場は、いずれも工業高校の定時制課程だった。生徒間のけんかはよくあった。生徒が教員に喰ってかかったり、暴行におよぶこともままあった。けれども、わたしの目が届くかぎりでは、教員が生徒に「体罰」を加えることは部活動をふくめてもなかったと思う。

定時制高校の夜学生たちは

 全日制高校から転勤してきたばかりの若い教員が、黒板に背を向けて私語をつづける生徒の後頭部を出席簿で軽くこづいたときのことだ。生徒はすかさず教員の手から出席簿を払い落として、「にいちゃん、ひとの頭をなんやと思うてるねん!」と怒気するどくつめよった。「教師に向かってその態度はなんだ!」と応じたものだから両者でとっつかみあいの大騒ぎになる。仲裁に入った生活指導部では、生徒への注意よりも、転勤してきた若い同僚への「カウンセリング」により多くの時間を費やした。「たたかれても黙っていた前任校のフルタイムの『教え子』よりも、すでに勤労市民でもあるパートタイムの夜学生のほうが、そのうちにきっと好きになります。ここの教員はみんなそうです」と異口同音に励ましたりもした。


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