2006年3月、当時小学5年生だった永井匠くんが自殺。その原因は担任教諭による体罰にあるとして遺族らがおよそ8100万円の損害賠償を求めた裁判の判決が10月1日、福岡地裁小倉支部で下された。地裁は自殺の原因は担任教諭による体罰だと認め、被告である北九州市におよそ880万円の支払いを命じた。

 判決によると、06年3月16日、永井くんほか数名の児童が新聞紙を棒状に丸めてチャンバラをして遊んでいたところ、永井くんの棒が女子の顔に当たった。ほかの児童より報告を受けた担任教諭は教室に戻り、永井くんに対し「謝りなさい」と叱責。「すでに謝った」と主張する永井くんとのあいだで言い争いとなった。

 担任教諭はイスに座っていた永井くんの胸ぐらを両手でつかんでゆすったところ、永井くんが抵抗したため、イスから床に落ちた。「帰る」と言う永井くんに対し、担任教諭は「勝手に帰りなさい」と大声で言い返した。それを聞いた永井くんはペットボトルを投げ、教室を飛び出していった。担任教諭は永井くんを追いかけることもなく、ホームルームを始めた。ランドセルを取りに教室に戻った永井くんは担任教諭から「何で戻ってきたんね」と怒鳴られ、ふたたび教室を飛び出した。永井くんが自宅で首をつってみずから命を絶ったのは、それから1時間後のことだった。担任教諭は永井くんが早退したことについて、学校側にも家庭側にも連絡を行なっていなかった。

 懲戒行為、体罰と認定


 今回の裁判の争点は、担任教諭の懲戒行為が体罰にあたるか否か、また懲戒行為と自殺の因果関係が認められるか否かだった。

 判決によると、「永井くんへの懲戒行為は1年間に渡って続いており、胸ぐらをつかむという行為は非常に感情的で指導方法としては相当性を欠くものである。また、社会通念に照らし合わせても許容される行為を逸脱した有形力の行使であり、学校教育法11条ただし書により禁止されている『体罰』に該当する違法行為である」と結論づけた。さらに、教室を飛び出し戻ってきた永井くんに対し、本来であればほかの教員に応援を求めるなどして、本人を落ち着かせるなどの措置を講ずるべきであったにもかかわらず放置したことについては、安全配慮義務を怠ったとして担任教諭の過失を認めた。

 担任教諭の懲戒行為と自殺の因果関係についても、担任教諭による懲戒行為が自殺の直接的な原因であることを認めた。しかしその一方で、永井くんは教員に反発したり、教室を飛び出したりするなどの衝動的な行動に陥りやすい児童であり、永井くん自身の心因的要因も、自殺という行動につながった原因のひとつであるとも加えた。この認定が結果として、損害賠償額の大きな減額につながった。なお、自殺後に同級生からとった「アンケート」を学校側が廃棄した件については、違法性なしと判断した。

 こうした諸事情を勘案し、判決は被告である北九州市におよそ880万円の支払いを命じた。今回の判決を受け、北九州市は15日、福岡高裁に控訴した。市は控訴理由について「当方の主張が認められず、認定された事実がすべて原告の主張に基づくものだったため」とコメントした。

原告代理人 八尋八郎さんのコメント


 体罰が許されないことは議論の余地がない。大人は暴力に反撃できるが、身長130cmの永井匠くんは反撃できない。だから被害にあった。教室の床に転がされた屈辱は、担任に対する復讐を決意させ、匠くんは、復讐の方法として自殺を選択した。短絡的ではあるが、子どもの反論・抗議を真に受ける社会的条件はない。子どもの権利は保障されていないのだ。

 11歳の少年の自殺の「なぜ」を問う原告弁護団は、匠くんの反論・抗議を法廷に持ち込んで闘った。被告らは担任の証言だけが正しいと教室の密室化をはかった。匠くんの級友の証言を「しょせん子どものたわごと、信用性なし」とした児童心理学者の証言は信用なしとして排斥され、匠くんは勝利した。