今回の「Neatな人たち」は束裕貴さん(仮名)。五月病にちなんで、この時期に「仕事を辞めたい」と思った経験を書いてもらった。
1996年に大学を卒業して、『フロムA』でアルバイトを探し、面接を受けました。「フリーターでいいや」という気がして……、当時は〈バブルの残照〉と〈不況の予感〉が混在している時期でした。
都心のホテルのレストランの、ウェイターとして採用されたのですが、僕は〈生意気〉だった、と思います。店長に挨拶したくない、とか、人から指図されたくない、と思ってました(やりにくい子が入ってきた、とほかのスタッフは困ってたみたいです)。「あなたみたいに変わった人、はじめて」と言われたけど、何が変わってるか僕にはわからなかった(腕を組んで、レジのカウンターに立ち、テーブルのお客を睨んだりしてました)。そんなふうに、はじめは僕も〈生意気〉だったけど、5月ごろには、だんだんヘコんできました。毎日地下鉄に乗ってホテルに通ってたのですが、一生、このままトンネルに閉じ込められる、という気がして、出口が見えなかった。延々と地下鉄に乗る――という、生活の重苦しさに、脳が縮んでゆくみたいだった。そして、食べ残しの皿をトレーに重ねながら「仕事辞めたい」と思ったのです。辞めようか、辞めるのやめようか、悩んだ末に、「6月いっぱいで辞めたい」と店長に言いました。「えー、辞めるの」と店長は動揺して、僕の気は軽くなった。 脳がぱっと開いたみたいに。
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