不登校新聞

262号(2009.3.15)

【公開】 フリースクールからの政策提言

2014年04月10日 15:30 by 匿名
2014年04月10日 15:30 by 匿名


 「フリースクールからの政策提言」が第1回JDEC日本フリースクール大会(主催・フリースクール全国ネットワーク)で採択された。政策制度研究会の中村国生さんのポイント解説を掲載する。

 提言をまとめたのはフリースクール全国ネットワーク(代表理事奥地圭子、増田良枝)。ネットワークはおもに不登校の子どもたちが学ぶ全国のフリースクール団体など約80団体と繋がっている。ネットワークの活動は、学校復帰のみの不登校施策の転換をはじめ、学校外の学びが認められ、子どもたちがもっと豊かに学び成長できる環境を目指すこと。実現のためには、抜本的な施策の転換と制度的な変革が不可欠であり、当事者・市民サイドから積極的な政策提案が必要との立場から、昨年9月、政策制度研究会を発足させ、本格的な研究が始まった。提言採択に至るまで、3度にわたる草案の検討をし、憲法学、教育政策、子どもの権利の研究者や地方議員など、識者・専門家からのヒアリングと学習会を重ね、さらに大会当日も参加者によるミーティングで2度の修正を経て採択された。

 ネットワークは、この提言を行政、フリースクール環境整備推進議員連盟、自治体、その他関係機関など各方面に向けて検討を求めていくとしている。なお、この提言本文では、フリースペース、居場所、ホームエデュケーションのネットワークや訪問支援のなど多様な学びや教育の活動を含めて「フリースクール等」と表記している。提言全文はフリースクール全国ネットワークのHPにて掲載。リーフレットの配布など、問い合わせは事務局(03-5924-0525)まで。

 はじめに


 教育の危機が叫ばれてから久しい。私たちは、今の教育に苦しんでいる多くの子どもたちの声に耳を傾け、子どもたちが求めていることを実現していかなければならない。

 言うまでもなく、子どもの存在は多様である。その多様な子どもたちを受けいれる教育の場が必要であることは論を待たない。子どもは多様であるということを踏まえ、世界的にも、多様な教育の場を社会が認め支えていく流れがある。私たちの社会ではどのように多様な子どもたちを受けいれる場を持っていくべきであるのかを真剣に問わなければいけない。また、そのような場を親・市民の努力に頼るだけでなく、社会が支える仕組みを整える必要がある。ここに、さまざまに個性を持ち多様な存在である子どもが安心して学び育つことのできる社会の実現に向けての提言をしたいと思う。

 目指すべき政策の方向性


 わが国でもフリースクール等やホームエデュケーションなどが拡がっているが、公教育制度外の存在であり、一部のケースをのぞいて、公的な援助の対象外である。

 子どもの学ぶ権利は、日本国憲法26条「教育を受ける権利」、世界人権宣言第26条「教育を受ける権利」および子どもの権利条約第28条「教育への権利」として保障されているが、日本における教育は、学校教育法下の学校教育のみで、多様な形での学びの存在を認めていない。学校、フリースクール、フリースペース、居場所、ホームエデュケーションなど、多様な教育の形態が並存できる道が必要である。

フリースクール等についての新法制定の提言


 欧米など諸外国では、教育や学校自体が多様に認められており、日本の画一的な教育制度と比べものにならない。フリースクールやホームエデュケーションも教育制度のなかの一部として位置づけられている国が多く、なかには公的支援を行なっている国もある。

 現在、憲法および教育基本法で「保護する子女に普通教育を受けさせる義務」(教育義務)を規定しているが、普通教育を学校教育に限定してはいない。世界人権宣言においては「親は、子に与える教育の種類を選択する優先的権利を有する」(第26条第3項)と規定されているが、わが国の教育法体系は、学校教育以外の普通教育を担保していない。親の教育選択の優先的権利も学校教育にかぎられている。この現状を変えるため、以下を提案する。

① フリースクール等についての新法(仮称「オルタナティブ教育法」)の制定

 学校教育法に並ぶ教育義務の実現として、フリースクール等についての新法(仮称「オルタナティブ教育法」)制定を提案する。フリースクール等やホームエデュケーションは、オルタナティブ教育法に準拠した公教育として位置づける。つまり、子どもが教育義務対象年齢に達したとき、学校教育またはオルタナティブ教育いずれかに基づく教育義務を課し、多様な教育選択を可能にする制度にする。

② 新法制定のための検討委員会の設置

 検討委員会は、国会議員、学識経験者だけでなく、フリースクール等の現場に関わる関係者、子どもの権利を専門にする弁護士、行政関係者、そのほか教育関係者で構成する。

③ オルタナティブ教育センターの設置

 文科省、ならびに教育委員会は、オルタナティブ教育を担当するセクションを創設し、地域に「オルタナティブ教育センター」を設置する。同センターは、学校教育を選択せずオルタナティブ教育を選択する子どもの教育保障のための機関で、フリースクール、インターナショナルスクールなどの多様な教育機関と、ホームエデュケーションの支援を担当する。また、オルタナティブ教育に関する情報収集や調査研究を行ない、シンクタンクやオルタナティブ教育開発の機能を担う。

④ 公的助成制度の創設

 義務教育においては公的負担が原則であり、学校教育は公費によって支える仕組みとなっている。また、高等学校など中等教育学校においても公費助成が措置されている。よって、オルタナティブ教育に対しても公費助成制度を創出する必要がある。フリースクール等に対しては、教育義務終了年齢以上(高等部など)も含めて、私学振興と同等な公費助成制度を創出し、教育機関の安定的な経営と子どもの学習にふさわしい教育環境整備を担保する。ホームエデュケーションを選択する子どもについては、教育費を家庭に交付する仕組みを整備する。

⑤ 市民による教育機関の設置のための環境整備

 オルタナティブ教育法に基づく多様な教育機関を市民が設置しやすいような環境整備を行なう。世界人権宣言に規定される「親の教育権」や子どもの権利条約が前提とする「個人及び団体が教育機関を設置し及び管理する自由」の観点から、フリースクール等やホームエデュケーションのネットワークなど、市民による教育機関づくりをしやすい環境を国は整備する必要がある。

◎ 「新法制定の提言」 のポイント

 「学校外の学びのかたち」が、公的に認められるためには、二つの道が考えられる。一つは学校教育法を改正し、学校以外の場も法的に位置付ける制度改正。もう一つは、学校教育以外も法制度化するという新たな制度づくり。提言では根本的に後者である新法制定を提唱している。この「オルタナティブ教育法」(仮称)が実現すれば、私たち国民がはたすべき教育義務は変換する。具体的には、学校教育と同様にフリースクールやホームエデュケーションなど子どもにあった多様な選択ができるようになるのだ。提言では、新法制定の実現に向け、まずフリースクール関係者も含めた検討委員会の設置することを提言している。さらには、オルタナティブ教育における教育義務を担当するためのセンターを行政が設置し、環境を整えて公費を出していくこと、また、新たに市民が教育の場をつくりたいと望んだとき、支援が得られる仕組みをつくることなどが提言に盛り込まれている。

すぐにでも実現すべき「9の提言」


◎ 「9の提言」のポイント

 新法制定のような大きな制度づくりはたいへんな時間がかかるもの。そればかりでは、いま困っている子どもたちは救えない。そこで、すぐに着手して実現してほしい政策が以下にまとめられている。提言は全部で9項目。提言1~提言3はフリースクールに対する内容、提言4~提言6は、現状の不登校施策を改める内容、提言7~提言9は教育分野にかぎらず子どもを取り巻く環境や政策全般に関する内容となっている。

 【提言1】フリースクール等の教育環境整備と運営安定化を図るための公的支援の実施

①学割通学定期券適用の拡充
②博物館・美術館の文化施設の学割入場料の適用
③公的施設・設備・備品等の提供支援
④フリースクール等への公的助成の実現
・文部科学省「不登校等への対応におけるNPO等の活用に関する実践研究事業」の拡充
・不登校対策事業としてのフリースクール等への助成金の交付
・公設民営型事業や適応指導教室(教育支援センター)の民間委託
・教育分野における市民(提案型)協働事業(協働事業提案制度)の推進
・教育行政機関・施設におけるフリースクール等の職員の人材活用
⑤フリースクール等への人的支援
・特別支援員や適応指導教室の指導員などの派遣。その場合の人材は、フリースクール等が推薦する。
⑥廃校等公的遊休スペースの貸出の奨励
⑦保護者の負担軽減を図るための措置
・通学定期券を利用しない場合の通所費補助を実施する。
・フリースクール等で教育を受ける場合に発生する費用も、就学援助支給の対象にする。
・フリースクール等の高等部に通う場合、自治体等の奨学金制度の対象にする。
⑧フリースクール等を支援する民間団体・企業等の奨励
⑨フリースクール等への事業振興支援
・無担保・低利子融資制度の創設
・雇用促進制度の創設
・税制優遇(寄付控除対象、授業料の消費税非課税など)

 【提言2】 教育行政・関係機関とフリースクール等との連携体制の促進

 教育行政もフリースクール等も、子ども一人ひとりが生き生きと成長でき、自立していくことを願う点では共通である。行政は、フリースクール等との連携意識を持ち、積極的に交流していくべきである。

①フリースクール等の認知向上と連携体制づくり
・連携会議の開催や教職員研修でフリースクール関係者を講師とし現場視察をするなど。
②教育相談等におけるフリースクール等の情報の提供
・フリースクールのパンフレット配布協力など。
③フリースクール等への通所や学習の評価
・現行の「出席扱い」の普及など。

 【提言3】フリースクール的な学校設立の促進

 現在、文科省の「不登校児童生徒を対象とした新しいタイプの学校設置」によって、東京シューレ葛飾中学校などフリースクール等が進めてきた「子ども中心の教育」を生かした学校が開校した。このようにフリースクール等の成果を活用し、既存の学校を変えていくことも進めるべきである。しかし、現行では学校設置基準がまだまだ高く、普及する状況にない。

①学校設置基準等の緩和
・設立資金や施設等の要件緩和、小規模・少人数でも可能なようにするなど。
②NPO法人立学校の実現
・私学助成金の対象とするなど、助成制度をつくるなど。

◎「提言1~提言3」のポイント

 フリースクールに関する規定は、議連や国会で取り組まれている学割定期の適用など個別課題から、行政との連携で一部始まっている助成事業や公的施設の提供、事業振興施策、さらなる行政との連携推進、新しいタイプの学校設置を活用しやすくする方法など、今ある芽を発展させ、すそ野を広げていく具体的提案が並んでいる。

 【提言4】学校復帰を前提とする政策の見直し

 現在の不登校の政策は、子ども一人ひとりに合わせた対応よりも、学校復帰指導に力点が置かれている。結果、子どもや家庭を苦しめることに陥ってしまうケースも少なくない。子どもの立場に立ち、真に「子どもの最善の利益」を実現するものとする必要がある。

①新しい不登校施策検討委員会の設置
・現行の不登校政策の見直しを目的とした委員会の設置。
・委員には行政、学識経験者などに加え、不登校当事者の親・子、支援者を選定。
②新しい不登校施策の周知・広報
③新しい不登校施策に基づく教職員・専門職等の指導者養成・研修

 【提言3】教育行政や学校等の現場の対応改善

①数値目標設定をやめる
・「不登校ゼロ作戦」「3年間で半減」「復帰率30%上昇」などの見直し。
②登校圧力につながる「早期発見・早期対応」をやめる
・「休息の権利」を保障し、不登校でも安心して暮らせる地域づくりに取り組む
③家庭訪問は慎重に行なう
・子ども本人や親が望む場合に限定する
④登校や出席を進級・卒業の条件にしない
⑤「休んでもよい」ことを伝える
・不登校のみならず、部分登校や欠席の多い子どもに対しても本人の意向を尊重すること。
⑥教育相談やスクールカウンセラーとの面談を強要しない
⑦「子どもの最善の利益」に立ったスクールソーシャルワーカーの活用
・今年度からモデル実施され始めたが、子どもの最善の利益に立った環境調整が必要。

 【提言6】在宅不登校に対する公的支援の実施

 不登校の子のうち、フリースクール等や適応指導教室など、学校以外の場に継続的に通っている子どもは半分程度であり、在宅で過ごす子どもが相当数いる。在宅でも子どもの成長を支援し教育を保障する対策や、豊かに学び成長できる環境整備を行なうことは急務。

①在宅不登校の子に対する教育支援の位置づけ
・在宅を前提にした教育支援、成長支援を位置づけ、NPOなどの活用
②在宅教育支援員派遣の実施
③「ITを活用した出席日数扱い」の活用の周知と実施
・インターネットを活用した「出席扱い」制度の推進・拡充
④博物館など、文化施設の学割入場料の適用
⑤保護者の負担軽減を図るための措置
・在宅学習やホームエデュケーションも奨学金等の対象にする。
⑥通信制小学校の設置、通信制中学校の増設

◎提言4~提言6のポイント解説

 フリースクールなど新たな取り組みへの支援が進まないのは、現状が学校復帰施策に凝り固まっているから。また、学校で苦しい思いをするうえに、不登校をしても安心していられないのは学校現場などからの働きかけのあり方が問題だからだ。現在の不登校政策を見直す、検討委員会のスタートや各自治体・学校が数値目標を掲げたり登校圧力を強めたりすることのないよう具体的な提案をしている。また、現に在宅不登校をしている子どもが家にいながら学ぶことを応援してもらえたり、通信制の小学校と中学校の提案もしている。

 【提言7】子どもが相談しやすい環境づくり

①学校における相談体制の充実
・担任や教職員が十分時間を確保できるように環境を整える。
②保護者とのコミュニケーション環境の充実
・親が子どもとの時間を十分に取れるよう労働環境、職場環境の整備も重要。
③行政窓口の一本化
・教育、福祉、子育て支援など縦割りでなくワンストップの行政サービスを整備する
④相談機関情報の把握・提供
・民間も含め、適正な費用や人権尊重等を確保するための組織づくり、情報機関の収集と提供の制度づくり
⑤訪問型の相談・支援の整備
・子ども本人の人権尊重とエンパワメントを第一に置いた支援体制を進める
⑥チャイルドライン体制の整備支援
・国や自治体はさらに支援を積極的に行なう
⑦保護者向け子育て支援・教育相談電話への支援

【提言8】当事者の立場に立った医療への転換

 不登校の子どもたちのなかには、医療と関係している子どもたちも多い。そして、なかには、過剰な医療や不適切な医療行為によって、さらに苦しんでいる子どもたちも存在する。症状に対応する医療から、人に対応する医療へ転換を図るために、次のことを提言したい。

①インフォームドコンセントの徹底
②医療オンブズパーソン制度の創設
③医師養成における人権カリキュラムの充実
④子どもに関わる医療のあり方の見直し
・過剰医療、専門家依存、多量投薬など、医療のあり方の見直しを国が対策する

【提言9】国や自治体等で取り組むべき課題

 国や自治体は、教育施策としてだけでなく、さまざまな方面から子どもの最善の利益を実現していく立場に立った施策を行なっていくことが望まれる。

①「子どもの権利条例」の制定
②子どもの社会参加、意見表明の推進
③子どもオンブズパーソンの設置
④子どもの駆け込み寺、子どもシェルターなどの設置
⑤子ども参加・参画による学校・教育行政の改革

◎「提言7~提言9」のポイント

 教育分野にかぎらず、子どもが気持ちをきちんと受けとめてもらえるようなさまざまな相談に関する提案をしている。それは子どもだけでなく保護者に対しても同じ。また、昨今の過剰医療ともいえる状況に対しても警鐘を鳴らし、インフォームドコンセント、医療オンブズパーソンなど人権尊重の推進等を医療界や医療行政への提言を盛り込んでいる。最後の提言9は、国や自治体が取り組むべき課題を具体的に列挙。子どもの権利条例の全国普及、子どもの意見表明や社会参加、子どもシェルターの普及などを提言している。

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