不登校新聞

340号(2012.6.15)

【公開】「居場所を見つける旅」第1回 ひきこもり名人・勝山実

2013年12月18日 14:13 by kito-shin
2013年12月18日 14:13 by kito-shin


 人見知りで社交性に欠けるひきこもりにとって、居場所と呼ばれるところに参加するのは、非常に勇気のいることです。だって、居場所にはすでに仲のいいグループができあがっているじゃないですか。そこに転校生のように登場しなければいけない。マンガや映画の主人公とはちがって、見た目に華やかさもなく、誰とでも打ちとけられる陽気さもない。なじめず、なにしていいかわからず、突っ立ってすごす。むすっとしていると近寄りがたいだろうと気を使って、別におもしろいこともないのにニヤニヤして……。しかし、すてきな笑顔とは無縁の、ドス黒いスマイルに、人は遠ざかるばかりです。誰からも声をかけてもらえず、ぽつねんとたたずむ。疎外感に耐えながら「いつものことだから」と自分を慰め、励ますのです。ずっとこんな人生でした。

 そんな居場所なき、ぼっちライフに変化がおきたのは、ブームに乗せられた親がパソコンを買ってきたときです。私は27歳。ビデオの録画もできない親ですから、しばらくするとパソコンを覚えることを断念し、ノートパソコンを居間に放置するようになりました。そこを見計らってパソコンを自室に持ち込み、心の居場所となるホームページ「ココロコロコロ」をつくりはじめたのです。いまでこそブログやツイッターで誰でもかんたんにつくれますが、当時は専用ソフトと、HTML言語をちょっと覚える必要があり、手間のかかるものでした。正社員になれないなら小説家になるしかない。そんな熱い気持ちを、エッセイやポエムというかたちで自己表現する場をネットに創ったのです。
 
 文壇デビュー同然の気持ちで始めたホームページでしたが、訪問者はなく、ともに文学について語り合う仲間はいっこうにあらわれません。やがて、世界の中心ではないネット砂漠のまんなかで、自分が注目されることなどないことを悟ります。私は、自分のサイトを見かぎり、活発に交流がおこなわれている、鶴見済ファンサイトに書き込みをして楽しむようになりました。そこで生まれて初めて、学校にもバイト先にも存在しなかった、同じ趣味を持った気の合う仲間に出会うことができたのです。
 
 ネットで知り合った仲間と実際に会う集まりを「オフ会」と言います。参加するのは緊張しますが、「学校にも会社にも行っていない自分が、ここで尻込みしていたら死ぬまで一人ぼっちになってしまう、えいやぁ」と、死ぬ思いで参加してみました。決死の覚悟で参加しているのは自分だけではない、じつはみんなそうなのです。それにふだんネットで交流しているおかげで、おたがいの性格もよくわかっているし、趣味も同じですから、初対面でありながら、人見知りの私でも楽しく会話ができました。すばらしい。
 
 これをきっかけに、鶴見ファンの集まりやイベントなどに行くようになります。精神科でも、図書館でもない新たなる居場所への旅立ち。一人で行っても楽しめる、オルタナティブな居場所の発見です。

つづく

【プロフィール】
(かつやまみのる)71年生まれ。高校3年生から現在まで20年以上に渡ってひきこもりを続けている、自称「ひきこもり名人」。著書『安心ひきこもりライフ』(太田出版)が好評。

関連記事

第18回 寝屋川教師刺殺事件【下】

232号(2007.12.15)

最終回 家庭内暴力とは何か【下】

232号(2007.12.15)

第232回 不登校と医療

232号(2007.12.15)

読者コメント

コメントはまだありません。記者に感想や質問を送ってみましょう。

バックナンバー(もっと見る)

624号 2024/4/15

タレント・インフルエンサーとしてメディアやSNSを通して、多くの若者たちの悩み…

623号 2024/4/1

就活の失敗を機に、22歳から3年間ひきこもったという岡本圭太さん。ひきこもりか…

622号 2024/3/15

「中学校は私にとって戦場でした」と語るのは、作家・森絵都さん。10代に向けた小…