連載「渡辺位さんの言葉」
「子どもが元気になるためにはどうしたらいいんですか?」という質問に渡辺さんは「それを聞いてどうするんです?」と答えた。
あれは長野での講演会だったか、質疑応答の時間中、父親の立場だと思われる男性が、それを聞いた。当時、私は10代の半ばごろ。不登校の当事者として会場に座っていたのだが、なぜか私のほうが寒々とした思いに駆られたのを覚えている。なんだか質問の意図を見透かされたような気になったからだ。
質問者の男性はマイクを握ったまま、「親だったら当然だと思いますが」と憤慨して言いかえした。渡辺さんは諭すように語りかけた。
「お子さんは生きていらっしゃるんですよね、生きているときは元気なときもあれば元気がないときもありますね」。
すっと渡辺さんが司会者を見た。「はい、次の質問に」と言いたげなしぐさ。男性は食い下がった。
「うちの子は不登校です。ずっと部屋で閉じこもっています。だから、どうしたら元気になるのかと聞いているんです」。
渡辺さんはゆっくり男性のほうを見てまた語りかけた。
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