林試の森クリニック院長・精神科医 石川憲彦さん
連載「子ども若者に関する精神医学の基礎」
前回までお話したような理由で、現代の精神医療を理解するには、あまり細かい病名にこだわらないほうが実用的です。そこでこの講座では、解りやすく実用的な説明のために、まず、精神現象を次の4つに大きく分けて考えます。そのうえで、精神障害をそういった精神現象の特殊なかたちとして説明していきます。4つの分類のキーワードは、「活力」「防衛」「摂取」「関係」です。
一つ目に、生き物の身体は、活動するための基本的な力、「活力」を必要とします。活力の源は、何よりもまず「休息」。どんな生き物も、休息をしなければ、慢性的に体力を消耗し、疲労で身体が動かなくなります。精神活動も、身体活動とまったく同じ。精神の活力を、精神医学では気分と呼びます。気分の状態は、睡眠、食事、気持ちのゆとりの3つで測定するのが、実用的です。
二つ目に、生き物は生きるため、「安全」を確保します。このために、自己を「防衛」します。安全が脅かされそうなときには、全身が危険信号を出します。恐怖や不安も危険信号の一つで、精神は安全を「安心」として感知します。しかし危険信号が不適切だと、安全でも不安を感じ、まちがった防衛を生み出します。
三つ目として、生命を維持するのに欠かせないのが、「摂取」する機能です。生命は、外界からいろいろなものを取りいれます。身体が必要とするのは、まず、空気、水、食事。身体は、必要量を摂取する(例えば、お腹がいっぱいになる)と、「充足」し、精神は満足を感じます。
最後は「関係」。生き物は、もの・こと・群れ・自然など、自分の内外に存在する「環境」との相互関係を生きています。人間は、社会と家族という二つの群れに属し、ほかの生き物にはない特殊な関係を利用して生きています。
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