「東京シューレ」30周年事業の一環として開催されている「不登校大学」。第9講の講師は心理カウンセラーの内田良子さん。1973年から現在に至るまで、40年以上に渡って現場にこだわってきた。長年、子育てや不登校に関する相談に携わるなか、つらい状況にいる子どもたちに何が必要なのか。そして、子どもが元気になるために親にできることは何なのか。

 私は心理カウンセラーとして、1973年から病院や保健所などで子育て相談に関わってきました。不登校についても、ちょうどそのころから注目され始めたこともあり、今日に至るまで、子どもの話、親の話を先入観を持たずに聞くことに努めてきました。40年がすぎた今でも、現場にこだわっている理由は、目からうろこが落ちるような、新たな気づきがつねにあるからなんですね。

健診の現場で"発達障害探し”


 最近、不登校を「発達障害」との絡みで見る向きが年々強まっていると感じています。3歳児健診や1歳半健診などでも「発達障害探し」が顕著です。本来は、すこやかに成長しているかどうかを見る場であるはずが、言葉の出がちょっと遅いだけで発達障害を疑われかねない状況がある。
 
 事実、発達障害に関する相談が増えています。以前も、3歳になる男の子が発熱で受診した小児科で大立ちまわりを演じ、深刻な発達障害と言われたと相談を受けました。診察室に入ろうとしない、イスの上に立つ、医者の聴診器を取り上げてふりまわす。あげくは取り押さえようとした看護師らに噛みつく、唾をかける、といったぐあいです。カンカンに怒った小児科医が「こんなにひどい発達障害の子どもは見たことがない、熱なんて大したことないから、専門家のところですぐに見てもらいなさい」と叱責されたということでした。
 
 母親に事情を聞くと、思い当たることはないと途方にくれています。大声でわめいていたというので、その内容を聞くと「首をちょん切られる」と何度も叫んでいたそうです。私と話をするまで母親自身気づいていなかったんですが、きちんと理由がありました。病院に行く数日前、父親が子どもが寝静まってから夜中にホラー映画を観ていたんです。ストレッチャーで運ばれた患者が医者に首を切られるというシーンを、男の子は息をのんで見てしまったのです。診察室でそれを思い出し、必死に抵抗したんですね。発達障害だからではありません。子どもの言うこと、やることには必ず理由、原因があり、必然性があるということなんです。
 
 ここで覚えていてほしいのは、3歳といえども子どもは「戦う人」であるということです。身の危険を感じ、誰も守ってくれないとしたら、一人でも戦う。これは登校強制をすると家庭内暴力が出ることを理解するうえで、とても重要なことです



 1975年ごろから増え始めた登校拒否は、1990年代に入り、急激に増えていきます。理由の一つに、早期発見・早期対応の観点から、不登校の日数を「年間50日以上の欠席」から「年間30日以上の欠席」へと変更したことが挙げられます。
 
 文科省もただ手をこまねいていたわけではありません。「スクールカウンセラーの配置」「適応指導教室の設置」など不登校対策に取り組んできました。しかし、策を講じれば講じるほど、不登校の子どもは増えていきました。なぜだと思いますか。文科省の認識と子どもの必要が大きくズレていたからです。
 
 不登校の子どもたちが必要としていたのは「休むこと」です。「休ませずに学校に戻すこと」ではありません。しかし、文科省や学校は「休むこと」を許してくれません。「3日休めば不登校を疑え」として、家庭訪問や電話連絡をする。場合によっては、精神科での服薬や入院まで促すケースが増えています。クラスメートからのいじめにあい、教師の指導や言動で傷つき、部活の上下関係で疲れはて、休みを必要とした子どもたちは、どんどん追い込まれていったわけです。


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