著者の提唱はひきこもり道の極み
秋もどんどん深まってきましたが、みなさんは最近、どんな本を読まれましたか?。今年の書評特集は、文庫こころのクリニック院長の関口宏さん、不登校経験者の松川明日美さん、村主美佳さんにオススメ本の書評を執筆してもらいました。秋の夜長、本を片手にゆっくりしたいものです。
不登校回復の目標は、学校に行くか行かないかではなく、元気になってもらうことだ。
同様に、ひきこもりからの回復もその目標は、働く働かないではなく、人眼を気にせず堂々と生きていってもらうことだ。
勝山氏はこの著書のなかで、ひきこもりから抜け出るのではなく、ひきこもり道を極めることによって、明るく元気なひきこもりライフを提唱している。
一種のサバイバル術ともいえるその思想の根底にあるのは、「働かない」という生き方である。
イソップの「アリとキリギリス」の物語は誰もが知っているものだろう。キリギリスたちは歌に酒に恋にと享楽の一夏をすごす。一方、アリたちは冬を越すために、キリギリスたちの遊びたわぶれる姿を横目で見ながら、せっせと食料を巣に運びいれる。やがて冬が来て、何の貯えもないキリギリスたちは飢えてアリたちに助けを求める。しかしアリたちは「君たちは何も考えずに夏中遊びまくっていたからこうなったのだ」と冷たくドアを閉めキリギリスたちを追い返してしまう。キリギリスたちは寒さと飢えで一匹また一匹と死んでいってしまう。
子どものころ、この話を読んだとき、私はアリの方へ感情移入して、「キリギリスは何てバカなんだろう」と思っていた。でもだんだん年を重ねるにつれ、なぜかキリギリスたちに思いいれをするようになってきた。
日本は人類始まって以来の豊かな国になったと言われる。豊かな国とはアリたちの社会だろうか。いやそうではあるまい。キリギリスたちも堂々と生きていける社会、それが成熟した社会ではあるまいか。
勝山氏の思想は、勤勉を美徳とする日本人の多くには、とても受けいれられないものと言っていいかも知れない。危険思想扱いすらされかねない。
だがこの本でも指摘されているように、ひきこもりの就労支援を受けて、せっかく就労しても、やがて挫折し、再びひきこもりの深い闇に消えていく若者たちが跡を絶たない。
彼らはなまけ者などではなく、人一倍働かなければと自らを追い込んでいる者達だ。むしろそのプレッシャーで身動きができなくなっているのが真の姿だ。
そういう「働く」ことに呪われている若者たちにとって、まずは一度「働かない」と開き直ること、それを説く勝山氏の思想は強力な解毒剤となるにちがいない。(文庫こころのクリニック院長・関口宏)
読者コメント