連載「ひきこもり時給2000円」vol.17
22歳から24歳、じっと息をひそめて暮らす日々。そのころ、僕には友だちがいなかった。いっしょに暮らす家族のほかには、話す人もいない。かつての同級生はみな就職し、僕よりずっと先の道を歩いていた。あまりにも距離が開きすぎて、もうその背中すら見えない。
空気の淀んだ自室、ベッドの柱にもたれながら、毎日毎日、ポータブルのCDプレーヤーで同じ音楽を聴いた。パール・ジャム、アリス・イン・チェインズ、スマッシング・パンプキンズ、R・E・M、ナイン・インチ・ネイルズ、サウンドガーデン……。90年代前期の洋楽。その当時、僕の心を慰めてくれたのはいつだって彼らだった。暗い歌詞の音楽たち。
社会から取り残された生活はつらく、苦しい。毎日自分を責め続けた。自分の身にいったい何が起きているのか、自分でもわからなかった。地図もなく、磁石もなく、どこに向けて歩けばよいかもわからない。頼るべきものも、信じるよすがもなし。唯一わかるのは、自分を取り巻く状況がだんだんまずくなっているという、救いのない事実だけだった。今は毎日仕事に行って、忙しい日々を送っているけれど、あのころのヒマな生活と今とを取り替えてほしいかと問われれば、答えは断然「否」だ。だって、今の生活のほうが圧倒的に楽だもの。誰に頼まれてもあのころの生活には戻りたくない。
そんな苦しく、先の見えない日々を耐え抜くことができたのは、僕の場合、これはもうまちがいなく、音楽のおかげだ。当時の僕にとって、音楽だけが唯一の逃げ場であり、精神安定剤だった。
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