不登校新聞

321号(2011.9.1)

なぜ人気? 「魔法少女まどか☆マギカ」

2013年08月05日 14:36 by kito-shin
2013年08月05日 14:36 by kito-shin




ありふれた展開が一転、社会の残酷性を描写


 「魔法少女まどか☆マギカ(以下・まどマギ)」とは、「魔法少女もの」と言われるジャンルのアニメです。

 「魔法少女もの」のアニメでは、小中学生ぐらいの少女のもとへ、かわいらしいマスコットキャラクターのような生物があらわれ、この生物が少女に力を授け、少女はその力(魔法)を使ってなにがしかの課題を解決してゆく。これが物語の基本パターンです。

 まどマギも、第3話までは、ごくありふれた魔法少女ものアニメかと思われていました。ところが、ある登場人物が死亡するシーンで物議を醸し、一気に視聴者を増やしました。「この作品はタダゴトではない」、それが最初の衝撃でした。
 この作品は、「死」「裏切り」「絶望」に満ちた悲惨で過酷な世界のなかにいながら、必死に世界に働きかけて、自分たちの運命を切り開いていく少女たちの物語です。

 平和な日常に生きていた中学生の女の子たちは、キュウベエという可愛らしいぬいぐるみのようなキャラクターに、「何でも一つ願いを叶えるから、ボクと契約して魔法少女になってよ」という奇跡のような取引を持ちかけれられます。とても都合のよい話のようですが、じつはその裏にある陰惨な魔女との闘いに巻き込まれてしまうのです。それは、闘い続けなければいつか自分が魔女になってしまうという死ぬまで続く戦場でした。

 主人公のまどかはごくふつうの女の子です。思春期の夢や憧れを持ち、コンプレックスを抱いている内気で心優しい中学生として描かれています。そのほかの登場人物を見ても、誰もが誰かに感情移入しやすいと思います。

 物語は、登場するキャラクターたちの「願い」を軸に、しだいに人間的なドロドロした部分が出てきます。願いをかなえる奇跡の代償の正体が見えたときに、そこで起こるさまざまな出来事に登場人物たちは葛藤し、もがき苦しみ、ときには絶望に打ちひしがられます。そんな状況で平凡な少女が魔法少女の運命に立ち向かっていくのですから、毎回目が離せません。
 
 この作品は、ご都合主義的な解決などは提示しませんでした。「現実」と闘う登場人物たちの葛藤や姿勢に、視聴者は強烈に共感を揺さぶられ、視聴者は各々の人生に照らし合わせたりしながら解釈をしていきました。一方的な解釈を押し付けない懐の広さも、この作品の素晴らしいところです。

 一方、まどマギは、90年代に一大ブームを築いた「新世紀エヴァンゲリオン」(95年~96年放送)とよく比べられます。エヴァンゲリオンが主人公を主体にした内向きの自意識の作品だとしたら、まどマギは自分の外の世界に意識を向けた、あるいは向けようとする姿勢をもった人物たちが登場する作品であると言えます。

 作品を通して感じるのは、戦後日本で隠されていた、しかし、本来、この世界が持っている現代社会の残酷性。それが剥きだしになっているように感じられます。現代社会で起きている過酷な日常を僕ら若者は敏感に感じています。それが不登校、ひきこもり、ニートや、うつなどのメンタルヘルスに表れているかもしれません。

 そのような「痛くて残酷」な世界で生きる力強さをこのアニメは表現している、それがこの作品にどうしても引き込まれる理由ではないでしょうか。(子ども若者編集部・石崎森人)

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