
連載「ひきこもり時給2000円」vol.23
どうしても、その部屋のドアが開けられなかった。
部屋の前にある廊下を何度も何度も往復し、「今度こそ入ろう、今度こそ中に入ろう」と心では思う。「次のタイミングでかならず入る」と自分に誓う。しかし、何度廊下を往復しても、ドアノブにかけたその手を動かすことはできなかった。そうこうするうちに、陽はすこしずつ西に傾き、時間だけがすぎていく。僕は焦り、途方に暮れる。1999年の10月、場所は東京・参宮橋。ひきこもりの人の当事者グループに参加申込のメールは出したものの、どうしても部屋のなかに入る勇気が出なかった。なかにはどんな人がいるのだろう? 途中から部屋に入って、ほかの人たちにいったいどんな顔で見られるのだろう? 怒られたり、何か文句の一つも言われるんじゃなかろうか? そのほかいろいろなことが気になってしまって、どうしても「あと一歩」が踏み出せなかった。もう、よほどこのまま家に帰ってしまおうかと思った。そうしたほうがどれだけ気持ちが楽だったことか。
その日より3カ月ほど前、決心をして精神科の病院に行くときも、先ほどの当事者グループのときと同じか、それ以上に勇気が必要だった。
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