前号に引き続き、槌田敦さんのインタビューを掲載する。槌田さんは福島原発事故は「人災だ」と指摘している。前号では原子力安全委員の2名を挙げ、今回は東京電力前社長の名前を挙げた。
――勝俣恒久前東京電力社長にはどんな責任があると考えられていますか?
勝俣恒久前東京電力社長は、現在は東電の会長で、事故対策副本部長でもあります。事故を起こした当事者がなぜ対策本部に起用されるのか?
東京電力は「想定外」という言葉を言い訳に使います。「想定外」というのは、ふつう「考えてもいなかった」という意味で使われます。しかし本当は「想定値外」だったわけです。同じような言葉ですが意味はまったく異なります。原発は地震や津波などの天災を当然、想定しています。ただし、何メートルの津波を想定するのか。もちろん想定値が高ければ高いほど費用はかかりますが安全性は高くなる。経済性と安全性は対立する問題なんです。
10メートル超の津波、前例も
たとえば869年に仙台平野部に高さ10数メートルの津波が観測されています。この事実は地震学者や原発の専門家ならば誰でも知っていることです。ところが経済性を優先して「1200年も前の話だ」と無視し、非常用炉心冷却ECCSの電源を、全部地下室に置いたままにしていたのです。地下室だけでなく、別の場所にも置けば今回の事故はなかったのです。事実、今回の地震に関係するほかの原発は、すべて、複数のECCSを別の場所に置き、対策していました。
今回の事故は、中越沖地震(2007年)で問題となったECCSの全面的見直しをせず、経済的理由からECCSの改修をしなかった当時の東京電力社長勝俣恒久の責任です。つまり、改修費をケチった結果の事故です。儲けるために起きた事故なのだから、東電は損害賠償金を全面的に支払うべきです。株で儲けようとした人の損失を他人や国が背負わないでしょう。それと同じです。
私たちは汚染してしまった国に生きていることを自覚し、被曝に対する常識を身につけて暮らす必要があります。被曝についてとらえやすいように表にしてみました。私が考えたのは「被曝影響10倍則」。10倍ごとに被曝のレベルが変わるということです。
注意すべき放射レベルは?
「被曝レベル1」(年1ミリシーベルト以内、毎時0・1マイクロシーベルト以内)は、ごく自然に生活していて受ける被曝量です。ふつう食べ物にも放射性物質は含まれています。もちろん体によくはありませんが、自然界にあるものはしょうがないでしょう。
「被曝レベル2」(年10ミリシーベルト以内、毎時1マイクロシーベルト以内)、将来的にガンになる可能性があるかもしれません。しかし、将来を恐れるあまりなにも食べない飲まないでは、ガンになる前に死んでしまいます。このレベルであれば、心配しても始まらないのです。このようなレベルの被曝を受ける原因は、たとえば医療や事故です。医療の場合は望んで被曝するのですが事故の場合は望まない被曝です。その事故に抗議しても、被曝した事実は現実問題、ガマンさせられることになります。
さらにその10倍の「被曝レベル3」(年100ミリシーベルト以内、毎時10マイクロシーベルト以内)。これは職業人が放射線の作業場で働いたときの許容線量です。このレベルだと将来的にガンを発症するなどが心配になってきます。ここに居続けるのはやめようよ、というのはこのレベルからでしょうか。
「被曝レベル4」は弱い放射線障害、「被曝レベル5」は一部死亡と、「被曝レベル6」は全員死亡という事態が想定されます。
これを頭のなかに入れておくと考えやすいでしょう。ちなみに現在、福島県飯館村で毎時13マイクロシーベルト、つまり、年間130ミリシーベルトですから、避難したほうがよいでしょう。自分のいる場所の放射線量を知るためには、やはりガイガーカウンター(測定器)を持っているといいでしょうね。(つづく/聞き手・伊藤書佳)
■プロフィール(つちだ・あつし)1933年東京都生まれ。大学卒業後、理化学研究所、教授などを経る。熱物理学ならびに環境経済論を講ずる「槌田エントロピー理論」で世界的に有名。『資源物理学入門』(NHKブックス)、「CO2地球温暖化説は間違っている」(ほたる出版)「環境保護運動はどこが間違っているのか」(宝島新書)など、著書多数。
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