不登校新聞

307号(2011.2.1)

【公開】父の気持ち 心のままに

2013年12月20日 14:16 by kito-shin
2013年12月20日 14:16 by kito-shin


 不登校を語るなかで、「父親不在」と言われることがある。そこで今回、恩田茂夫さん・春音さん親子に登場してもらった。父から見た不登校、娘から見た不登校の共通点とちがいは何なのか。それぞれの視点から見えたのは「不登校もひとつの生き方」というメッセージだった。

 幼稚園のころ、「お友だちに嫌いな子は一人もいない」と言っていた娘。期待に胸をふくらませて入学した小学校で、連日の「ぶっ殺す」や「死ね」などの暴言のほか、突き飛ばされるなどのいじめや嫌がらせを受けるようになった。

 私は何度も学校に対し、娘が受けていたいじめについて尋ねた。しかし、学校側はいじめの事実を隠蔽することに終始した。校長にいたっては、「価値観のちがう家庭の子どもが集まるのだから、多少のことは……」と言う始末。娘へのいじめはその後も続き、学校側の対応はなんら変わらなかった。保身のために、娘をうそつきに仕立てあげる教師までいた。教育委員会にも調査報告を要求したが、いっさい無視、黙殺された。

 そのうち、「何もひどいことはしてないのに、勝手に怒って子どもを登校させない親がいる」という根も葉もない噂を流されるようになった。警察に通報され、児童相談所の職員がわが家にやってきたこともある。強迫やいやがらせも受けた。身の危険さえ感じることもある。

 昨年10月、群馬県桐生市の女子児童がいじめにより自殺する事件が起きた。「いのちを削られるような学校には行かなくてもいいじゃないか」というメッセージを発信したくて、テレビの取材に応じた。すると、今度はその際の画像を使った嫌がらせを受けた。被害者は被害にあったことも主張できないのだろうか。

家中心の学び、多くの経験を


 娘は小学3年生の秋に完全不登校になって以来3年間、家での学びを中心とした「ホームスクーリング」で日々すごしてきた。とはいえ、最初から葛藤がまったくなかったわけではない。「私は何も悪いことはしていない」と娘は言うが、「私のことを悪い子と思っている人もいるはずだ、気をつけよう」「学校なんてなくなっちゃえばいいのに」と、自分を責めることもあった。学校に行かないと決めた娘が自分を責めないように注意を払うこと、それが父としての私の役割だと感じていた。

 「ホームスクーリング」をするうえで私がこだわったのは、とにかくいろいろな体験をさせてあげたい、ということだった。国語や算数といった基礎科目の学習はもちろん、コンサートや社会科見学に二人で出かけたり、プールやスキー、登山など、季節に応じてさまざまに工夫をしてきた。

 運動も週に2回は近所の公園に行き、短距離走やバスケットボール、なわとびなどをする。跳び箱はないが、うまとびの馬になら私がなってあげられる。

 08年の夏、父娘二人で自転車旅行をすることにした。東京から富山県氷見市まで解体した自転車を運び、そこから金沢まで能登半島を一周した。

 一週間かけておよそ360キロを走破するというのは当時小学4年生だった娘にとって、楽な道のりではなかったと思う。しかし真っ黒に日焼けして、それでも頬を真っ赤にして走り続け、たくさんの人と出会い、励ましてもらった。やり遂げたという自信は「がんばれる」というアイデンティティ。その後も、09年の津軽・下北半島、昨年の紀伊半島と、3回の夏で1000キロを走破した。

不登校を通じて得た"父娘の絆”


 娘は現在、中学受験に向けて勉強にいそしんでいる。合格すれば、ホームスクーリングから一転、毎日学校に通うようになるかもしれない。ただし、それはサクセスでもゴールでもない。

 私たちは不登校を通じてかけがえのない体験をし、かけがえのない時間を送った。同時に失ったものも少なくはない。不当に人権を侵害されたこともあるし、ストレスで身体を壊したこともある。

 しかしこの間、父娘の絆、支えてくれる人たちの温かさを人一倍強く感じることができた。登校していようが不登校であろうが、そこに優劣はない。他人を踏みにじって登校しているのは"劣”だし、やさしい心の不登校は"優”である。

 不登校であることで生活が乱れてしまうこともあるだろうが、その多くは周囲からの心ない偏見、誹謗、中傷などによるものではないかと私は思う。マイノリティを迫害する人たちこそ"劣”だし、いじめを隠蔽する教師たちこそ"劣”である。

 ホームスクーリングで育ち、真夏の自転車旅行を乗り切った娘を見ていて「優しい心のままに、ゆっくりとしっかりと自分のペースで育っている」と感じる。教師が卑劣なら教委が姑息なら不登校が正しいし、自分のペースでゆっくりしっかり生きている子どもはみな、みずからのサクセスストーリーを歩んでいると言えるのではないだろうか。(恩田茂夫)

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