『ねるときは もっとおきときたいのに おきるときは もっとねたい』(『1年1組せんせいあのね』より)は、ある小学1年生の発言ですが、とても素直に核心をついていると思いませんか――。
さて、1960年代より「起立性調節障害」というものが増加してきていると聞きます。「起立性調節障害」とは、朝起きようと思っても体がいうことをきかない、倦怠感におおわれ、立ち上がるとふらついたり、立ちくらみを起こしたり、失神することもある、そういった状態像が特徴です。原因は血圧低下、脳血流をはじめ、全身の血行不良によって生起すると理解されています。ではなぜそういうことが起こるのでしょうか。その元凶はストレスであると考えられています。
さて、人間の生体にはいろいろな神経が張り巡らされていますが、そのなかに自律神経というものがあり、これらは消化や呼吸、血液の循環など生命維持に欠かせない営みをしています。そして、自律神経は交感神経系と副交感神経系とにわけられ、交感神経系が亢進すると血管は収縮し、心拍数は増え、体の隅々まで血液が送り込まれ、瞳孔も開くというように、生体を興奮させるような働きをします。一方、副交感神経系はこれとは逆に興奮を鎮め、リラックスした状態をつくろうとします。この二つの拮抗する神経系が絶妙にバランスをとっているので私たちは生命活動を維持することができているというわけです。仕事に励むときには交感神経系が働いて緊張状態をつくり、リラックスタイム(休息)のときには副交感神経系の支配を受けて身体を休め、安眠もできるという仕組みです。
健全な反応
ところで厄介なことに、この自律神経の中枢は間脳の視床下部というところにあって、人間の意思によって働かせることができず、視床下部を包むように位置する大脳辺縁系の影響下にあります。
大脳辺縁系は人間の情動(感情)と密接にかかわっている部位で、人間の喜怒哀楽、あるいは恐怖、不安などと深い関係をもっています。詰まるところ、自律神経系は人間の意思ではなく、感情の動きによって作動しているという理屈になるのです。日ごろ、強烈なストレスにさらされていると、つねに交感神経系が亢進を続けなければなりません。それではたまったものではないと体が察知すれば、生体を維持するためにサーモスタットが働いて交感神経系の活動を抑え、副交感神経系が活躍しはじめます。つまり、身体に「休め」と命令が下るようなもので、これはある意味、生体を守るための"回避のメカニズム”として健全な反応です。こうして副交感神経系が優位に立って睡眠に移行することで、朝起きるなんて、とてもじゃないができない状態をつくりあげます。これが「起立性調節障害」の本態であるということになるでしょう。
「起立性調節障害」は心を深く傷つけられることや、それに伴い恐怖や不安が増大することによって症状化するものですので、朝起きないからといって無理をさせてはいけません。むしろ、痛手を負った心の傷に目を向けた介抱が必要なのです。そして、心に安静をとり戻すことができれば、やがて回復していく(血圧がそれほど上昇しなくても起き上がれる――症状化しない)というのが医療においても一般的であると言われています。(宇部フロンティア大学附属文京クリニック臨床心理士・西村秀明)
読者コメント