この1年をふり返って、私が一番印象に残っているのは、文部科学省が10月26日に発表した「いじめ32万件 過去最多」という調査結果です。前年の2015年度調査では、約22万件でしたから、この1年間で「いじめ」は10万件も増加したことになります。
このニュースは教育関係者はもちろん、学齢期の子どもを持つ親御さんたちにとってもインパクトがあったようで、実際にお会いした際に何度か話題にのぼることがありました。おおかた「最近の学校はいじめが蔓延してるでしょ。
今の子どもたちって……」といったネガティブな話の流れになるのですが、私は「いじめの件数」が過去最大になったのは、もしかしたらいいニュースなのではないかと期待しています。
“いじめ”だから対応できる
こんなことを言うと、「おまえは何を言ってるんだ、いじめが増えていいことなんてあるわけないだろ!」とおっしゃる方もいると思うのですが、文部科学省が「いじめの件数」と呼んでいるのは、実際の「いじめの発生件数」ではありません。日本のいじめは、どこからがいじめという枠組みが非常にあいまいなので、いじめの件数はいじめの「認知件数」で測定されます。
つまり、今回過去最大の数値を記録したのは、実際のいじめの件数ではなく、「学校がいじめを把握している件数」ということになります。
では、なぜ今回いじめの「認知件数」は増加したのか。それは、この1年間で学校の先生たちが、かつてはいじめかどうかの判断がつけられなかった微妙なラインの行為を「いじめ」だと判断するようになったのではないかと考えられます。
日本では、すでに「いじめはよくない」ということは常識になっていますから、ある行為が「いじめ」だと認められれば、学校は早急に問題に対応せざるを得ません。これまで問題になってきたのは、ある行為がいじめかどうかの判断がつかず、対処が遅れ、知らず知らずのうちに取り返しのつかないことになるということでした。
個人的には、「いじめ」だろうが「いじめ」ではなかろうが、悩んでいる人がいたら助けてあげればいいんじゃないかと思っているのですが、なかなかそれは難しいらしいのです。
学校では、まず「いじめ」かどうかを判断して、「いじめ」であれば、問題解決へ向けて対応するということが行なわれてきました。だとすると、一人でも多くの子どもたちを救うためには、微妙なラインの行為をまずは問題の俎上に挙げることが必要になります。
一方、いじめの件数を「ゼロ」にすることは、かなりかんたんで、学校がすべての行為をいじめだと認めなければいいだけです。しかし、今回の調査ではそうしたことが起こりませんでした。だから私は、このニュースがいじめ問題解決への兆しを示す、いいニュースだと期待せずにはいられないのです。(秋田大学助教・鈴木翔)
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