不登校新聞

477号 2018/3/1

宇多丸から自信を持てない人へ「自信は他人からもらおう」

2018年03月14日 12:19 by motegiryoga



 ラジオやテレビ、音楽活動などで幅広く活躍する宇多丸さんにお話をうかがった。宇多丸さん自身は不登校していないが、語ってくれた言葉には不登校の人が生きていくためのヒントがつまっていた。生きづらさを生きるための「宇多丸流サバイバル術」をお読みいただきたい。

――宇多丸さんの学生時代はどんな感じでしたか?

 小中学生のときは、とにかく学校が窮屈でしかたなかったです。クラスや部活内の人間関係がきつかったんです。逆に高校生になると、人間関係が一気に解放されました。高校時代の友人たちは、映画が好きな子だったり、音楽グループ・YMOが好きな子だったり、クラスは別だけど、文化的な趣味でつながった人たちでした。

 なんというか「クラス」というシステムは理不尽だと思います。一つの箱のなかに強制的に人を集めてコミュニケーションさせるなんて、バカみたいじゃないですか。単一のチャンネルしかないなかで濃い人間関係があると、ろくなことにならない。みんながストレスを抱えてしまいます。

 逆にゆるく広く、いっぱいチャンネルを持っていると楽です。音楽の話はこの友だち、映画の話はこの友だち、というふうに。さらに学校の外にも友だちが増えれば「学校」という単位すら関係なくなる。そうなるとクラスや部活内の同調圧力なんて、心底バカバカしくなりますよ。「いや、別におまえらに付き合わなくてもいいんで」と。そういうふうに気が楽になってからは、学校そのものにこだわりがなくなりました。

表現すること なぜ踏み出せた

――ラッパーとして音楽を通して自己表現されていますが、自分をさらけだして表現をする、というのは怖いことでもあると思います。なぜ、自己表現をしようと思ったのですか。

 それが僕にもわからないんです。僕の場合は大学のサークルで出し物をしなきゃいけなくなって、そのときに「ラップやります」と言ったのが最初です。でもなぜそのとき「俺にはできる」と思ったのか、ぜんぜんわからない。

 知り合いのアーティストたちにも「なんで始めたの?」と聞いてみたことがあるんです。みんな「始めてみたらおもしろくて」とか「ひっこみがつかなくなって」とか言うんですが、「じゃあその最初の一歩はなぜできたの?」とさらに聞いていくと、結局みんな「わからない」という答えに行きつくんです。「なんかわからないけどやれると思った」とか「なんかわからないけどやっちゃってた」と。

 おっしゃるとおり、表現することは怖いし、もっと言えば恥ずかしいです。でも表現する人には、最初の一歩に「理不尽なジャンプ」がある。そんなジャンプを自分でもわからないうちにしちゃっているかどうかが、表現する人としない人の差なのかもしれないですね。

大切なのは根拠なき自信

 ただ、最初のジャンプをするにあたって、自分の背中を押してくれる「見えない手」はあるのかもしれない。大学生のときの僕のように、根拠もなく「俺はやれる」と思わせてくれるものです。それはこれまでの経験のなかで得てきたものが大きいんだろうと思います。とくに大事だと思うのが親ですね。小さいころから、親に「根拠のない自信」を与えられてきたかどうか。逆に「あんたになんか無理」「できるわけない」と言われ続けると、最初のジャンプをするのは難しくなると思います。

――最初の一歩を踏み出したあともたいへんだと思います。自分よりもうまいラッパーがたくさんいて、自信をなくすようなことはなかったんですか。

 正直に言うと、当時「もっとうまい奴」は国内にはいなかったね(笑)。でも僕らはアメリカのヒップホップを目指していたから、その理想に自分が達していないという自覚は相当ありました。

 でも、自信がなくなっても続けていればなんとかなっていくものです。「自信」というものについて、僕には理論があるんです。まず「自信がある状態」には2種類あり、「根拠のない自信」と「根拠のある自信」があります。それから「自信がない状態」にも、それぞれ根拠のある場合とない場合の2種類あると思っているんです(下図参照)。

 僕の場合、まず音楽をはじめた瞬間は「自信アリ、根拠ナシ」の状態でした。実績ゼロなのになぜか自信だけはあった。でも、いざやってみると自分がまったくできない、という現実が見えてしまう。自信はガーンといったん底につきます。その状態が「自信ナシ、根拠アリ」です。実績が出てないという、自分のダメさの根拠があるわけです。

 しかしそれでも「1回やってみた」おかげで、ほんの少しは実績ができます。1曲つくったとか1回ライブをやったとか。そうやって実績を積み重ねていくと、時間はかかりますが「自信ナシ、根拠アリ」の状態から、少しずつ「自信アリ、根拠アリ」の状態に変わっていくんです。とにかくやり続けることが大事なんです。

 今の僕は音楽を始めた直後のような自信はありません。自分はラップが上手くないと思っている。だけど、つくってきた曲だったり、売れた枚数だったり、ライブに来てくれたお客さんの数などは、否定しようとしてもできない事実です。そうした実績の足跡があるから「自分にはその程度は実力がある」と思っている。それが「自信アリ、根拠アリ」の状態なんです。

自信も根拠もないのはキツイ

 ところで、いちばんキツイだろうな、と思うのは「自信ナシ、根拠ナシ」の状態です。客観的な評価がないのに「自分はダメだ」と決めつけてしまっている場合ですね。「自信アリ、根拠ナシ」の状態にいる人は、いずれ現実にぶつかって挫折したとしても、そこから学ぶことができる。でも「自信ナシ、根拠ナシ」の状態にいる人は「やるのがこわい」「どうせだめだ」と、最初の一歩を踏み出すことができない。そうすると、失敗から学ぶことができないんです。

――自分自身も含めて、不登校経験者には「自信ナシ、根拠ナシ」の状態にいる人が多いと思います。

どうやって自信を持つか、は大問題ですね。先ほども言ったように、本当は親が、子どもが小さいころに自信を与えてあげなきゃいけないんです。ただ、それが得られないまま大人になったとしても、親以外の人からもらえばいいとは思います。たとえば恋人がいれば、自分を肯定してもらえる。でも、そうかんたんに恋人がつくれたら苦労しないですよね。

 「自分を肯定してくれる人がどこにもいない」。そんな場合は、もうギリギリの回答になってしまうけど「最悪、犬飼え」というのはどうですか(笑)。犬はすごいですよ。飼い主の存在を100%喜んでくれる。無条件にこちらを肯定してくれますよ。

 それから、考えが悪い方向に行くときは、たいてい睡眠不足のときです。落ち込んでても、ゆっくり寝て起きたら、ケロっとしている場合はけっこうあります。だから無責任にバカなこと言わせてもらえれば「犬飼って寝ろ」と(笑)。

捨てたもんじゃないと思えれば

 それから、キツイ思いをしている人はいっぱいいると思うけど「あなたが自信を持てないのはあなたのせいではまったくないんだ」というのも伝えたいですね。あなたを充分に肯定してこなかった親やまわりの大人が悪いんです。恋人でも犬でもなんでもいいから、なんとかして「私、そこまで捨てたもんじゃないな」って思えるようになるといいですね。

――不登校の子を持つ親の方にメッセージを。

 さぞかしご心配でしょうが、たかだか学校に行かないだけなので、なんていうか、気長に、お子さんを信頼してあげてください、という感じですね。子どもが1日中、家でゴロゴロしていれば、ケツをたたきたくなる気持ちもわかります。けれど、親は子どもに「根拠のない自信」をつけてあげられる数少ない存在なんです。「親が甘やかさないで誰が甘やかすんだ」と思います。

――ありがとうございました。(聞き手・茂手木涼岳)


■宇多丸プロフィール……(うたまる)1969年生まれ。ラッパー、ラジオ・パーソナリティ。1989年、ヒップホップグループ「RHYMESTER」を結成。日本ヒップホップの黎明期よりシーンをけん引している。また、2007年よりTBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」のパーソナリティをつとめる。そのほか、ライターなどとしても幅広く活動している。

■「子ども若者編集部」……全国不登校新聞社が設置する編集部。不登校、ひきこもりの当事者/経験者の編集部。月に1度の編集会議を中心に企画立案、取材、執筆などで紙面づくりに関わっている。年齢層は10代~30代。編集員は100名。

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