不登校新聞

478号 2018/3/15

本当は学校にいたかった 先生に居場所を奪われ不登校に【当事者手記】

2018年03月13日 17:30 by motegiryoga
2018年03月13日 17:30 by motegiryoga



 「ここに名前を書いて印鑑を押せば、息が苦しくなる校門をくぐらなくてすむ、ついていけない授業ともおさらばだ」。私は高校1年生の冬、退学届を提出し、高校を退学した。私は限界だった。

 「このままの状態だと本校を卒業することは難しい」「ほかの高校に行ってみるのはどうだろう」と高校から打診された。そのとき、どこか救われた気持ちがしたことをおぼえている。私が1年間で取ったのは、3単位。怠けていたわけではない、必死の思いで取った単位だった。しかしその3単位があまりにみじめだった。がんばっているはずなのに、毎日毎日むくわれない気がして苦しかった。

 私は中学2年生の冬から教室に行くことがしんどくなり、保健室登校になった。教室に行くこと、というよりは勉強することがバカバカしく思えて、授業が頭に入らなくなった。そして気がついたら保健室に行っていた。保健室では先生と塗り絵をしたり、ゆっくり本を読んだり、私にできるすごし方をしていた。保健室は私にとっての教室で、居場所だった。けっして学びたくないわけではなかった。でも、教室に行こうとすると「しんどい」の一言しか出てこなかった。

 私の通っていた学校は中高一貫校だった。中学3年生のある日、私は先生に言われた。「高校に上がったら、中学の保健室には来れないのよ」。高校生は、中学とは別棟にある高校の保健室に行かねばならないということなのだが、なぜそうしなければならないのか、私にはわからなかった。

高校生になれば

 そして私は高校生になった。高校生になれば、もしかしたら変われるかもしれない。新しい筆箱、新しいシャーペン……祈るように買ったことをおぼえている。だが、私はまた教室に入れなかった。そして、やむなく高校の保健室を訪れると、あるルールを告げられる。「保健室の利用は1日2回まで、1回の滞在は60分まで」。

 高校の保健室の先生の口ぐせは「休んだあと、授業に戻れるのなら休んでいいよ。ただ休むだけなら帰りなさい」だった。そして「1回60分」のルールの時間をすぎると先生は私を連れて教室へ向かう。先生が教室の扉を開け、「さあどうぞ」と私を教室に入れるのだ。「もう保健室に来るな」と言われている気がした。

 このルールによって私は高校に行けなくなった。居場所だったはずの保健室の扉をどうしても開けられなくなった。「時間じゃないんだ、場所がほしいんだ」。そう先生に伝える元気はなかったし、あのルールを知った時点で、あきらめていた。そのときから学校に私の居場所はなくなった。足を伸ばせばすぐに届く中学の保健室はそこにあるのに、私に行く権利はない。これが一番つらい現実だった。「もうこの学校にはいられない」と強く思った。高校には私のことを理解してくれる先生は一人もいなかった。そんな場所にこれからも通い続けるという苦行から解放されると思うと、何がなんでも退学したかった。

幸福のはずが 

 そして、私は高校を退学した。予想していた以上に、心は軽く、晴れやかだった。何も後悔はないはずだった。退学した次の日の朝、いつもよりたっぷり寝て起きた。ようやく手に入れた幸福感に包まれる予定だったのに、現実はちがった。「ああ、私は社会から何も求められていない」。胸がちくちく痛んで涙が出た。「高校生ではない私」は、何者でもない存在だった。そのとき初めて気づいた。私は、本当は学校にいたかったんだ、と。

 今この記事を読んでくださっているすべての方に伝えたい。私が保健室にいることは単位にはならないかもしれない、何も学んでいないかもしれない、先生たちは困っているのかもしれない。でも、保健室は私の唯一の居場所だった。そして、学校にいる時間は、「高校生の私」でいられた。それが私のプライドだったのだ、と。

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