不登校新聞

482号 2018/5/15

親が学校と付き合う究極の方法 教師歴40年で見えた最大のコツ

2018年05月15日 13:39 by koguma
2018年05月15日 13:39 by koguma



 2018年2月24日、東京都で講演会「究極の学校とのつきあい方」が開催された。講師の岡崎勝さんは、愛知県名古屋市で40年以上に渡って小学校の教員を務める一方、雑誌『お・は』編集人でもある。『お・は』創刊20年という節目に行なわれた講演会で選んだテーマは、「究極の学校とのつきあい方」。教員の目から見た学校とのつきあい方とは。

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 小学校の教員になって40年以上が経ちました。いまも非常勤として理科を受け持っていますが、じつは「学校」があまり好きじゃないんです。「学校って本当に必要なのだろうか」という問いを持って教員になったものですから、「学校ありき」で物事を考えたことがありません。現在も、学校とどうつきあうか、どう距離をとるかというのは私自身の課題としてつねに持っています。そして、それ自体が『おそい・はやい・ひくい・たかい(以下、『お・は』)という雑誌を創刊したきっかけであり、編集人として今日まで20年間も続けてこられたモチベーションにもつながっています。

逆の価値観を

 『お・は』の編集をするうえでこだわり続けてきたのは「いまの学校や社会の価値観を突き放してみませんか?」ということです。学校という場所は「個性を大切に」と言いつつも、実態は大人がつくった「ものさし」で子どもを「分けて、ならべて、ばらばら」にしようとするところです。その根底には、効率をよくしていこう、なんでも数値化し、比較しよう、競争させれば活気が出る、みんな同じがいい、などの考え方があるわけですが、これには強い危機感を持っています。

 最近、若い先生たちのなかに「子どもが元気でイキイキするから競争させましょう」と言う人がいます。たしかに楽しそうにがんばっている子もいるんですが、その輪に入れない子、そういう雰囲気を感じ取った時点で気力が萎えてしまう子がやっぱりいるんです。それを見たとき、自分の認識のまずさに気づいてくれればいいんですが、たいていの先生は「この程度でめげていたら社会で生きていけないぞ」と、逆にはっぱをかけてしまう。それを当然視するムードが教員間にあるものだから、よけいに子どもは追い込まれてしまいます。こんなことを続けていては、その影響は悪いかたちでかならず出てきてしまうなって。

 学校にある「ものさし」を壊すためには、「はやいよりおそいほうがよいこともある」「たかいよりひくいほうがよいこともある」というように、逆の価値観を提起することが必要だと考えています。『お・は』を続けてきた20年は、それをいかにして伝えるかということに悩み、考え続けた時間だったように思います。

「評価」は可能?

 その意味で言えば「評価」も同様です。「学校で子どもを評価するなんて、そもそも可能なのか」という問題提起です。職員室でこういう話をすると「岡崎さんとは議論にならない」と、ほかの先生に言われてしまいます。浮くというより、ほぼ飛んでいる状態に近いですね。浮いていれば沈むこともできるんですけど(笑)。

 とはいえ、「評価をやめる」ということは、結局できませんでした。学校の「ものさし」のありように疑問を投げて問い続ける一方で、その枠組みから完全に自由になることはできなかったんです。そうした葛藤や矛盾を抱えつつも、今までなんとかやってこられたのは、『お・は』だけではなく、市民活動にも参加するなど、さまざまな市民に出会い、学校の外の空気をよく吸っていたからでしょうね。それは子どもにとっても親にとっても、非常に重要なことだと思います。

 本日のテーマ「究極の学校とのつきあい方」について、ずばり言ってしまえば、「学校とべったりとつきあわないこと」だと私は考えています。どうしたって集団行動が苦手な子はいるし、人が多くて騒々しい場所はイヤだという子もいます。しかし、学校は画一化された価値観と暮らし方を子どもに提供する場ですから、「こうあるべき」という枠組みが決まっています。

 こういう話をすると「時間を守る、まじめに出勤する、というのは社会人として当然だ」と言う人がいますが、本当にそうでしょうか。子ども時代に培ったことが大人になって実になるかと言えば、かならずしもそうではありません。だからこそ、子どもを学校に預ける場合、「学校とどう距離をとっていくか」というのは、親としてつねに考えていかなければいけないことだと思います。

“予定調和”はまったくウケない

 愛知県日進市で「アーレの樹」(℡052・807・2585)というフリースクールを手伝い始めたんですが、フリースクールって難しいですね。教員を長年やってきて、教育実践にはそれなりの自負を持っていたんですが、フリースクールだとまったくウケないんです(笑)。

 原因はふたつあって、ひとつは学びについて子どもはイヤな体験しかしてこなかったということ。もうひとつは私が準備しすぎてしまうということです。その場でおもしろいと感じることをもっとフレキシブルに追及すればいいのかもしれないけど、なかなかできない。要するに、学校的な予定調和を求めてしまっているところが私にもあって、そのにおいを敏感に感じ取った子どもが反証してくれているわけです。

 そのほか、フリースクールで私が何をしているかと言えば、不登校の子どもたちや保護者が学校とどう関わるべきかを、学校に伝えているんです。たとえば、小学3年生で不登校になった子どもが4年生に進級したけれど学校に行かなかったとします。そこで担任が変わっていれば、子どもと面識があまりないということも起こり得ます。それってどうなのかなって思うんです。たんに家庭訪問しろと言いたいわけではありません。子どもがすごすひとつの場として学校を見るならば「その子がいま現在教室にはいなくても、きちんと存在しているんだ」という意識を先生にはつねに持っていてほしいんです。

 ですから、私はよく「年に1回は担任とともに見学しに来てください」と校長先生に言います。「そんなこと初めて言われました」というリアクションが返ってくるのが大半なんですが、いやいや逆でしょう、と。「うちの児童生徒がフリースクールでどうすごしていますか?」とそちらから聞きに来るのがふつうだろうと思うんです。

 子どもたちのなかには、先生がフリースクールに来ることを嫌がる子もいるので配慮は必要です。とはいえ、「学校なんて絶対に行かない」という子もいれば、「行ければ行きたい」という子もいるし、「学校行事だけ出たい」という子もいる。学校に対する思いもさまざまなわけです。「多様性が大事だ」と口で言うのはかんたんだけど、実際にそれを保障するさまざまな努力というのは、フリースクール関係者にも必要なんじゃないかと思います。

サービスお断り

 「学校と距離をとるっていっても、具体的にどうすればいいの?」という相談を親御さんからよくされます。ただし、よくよく話を聞いていくと「担任が子どものことをまったく理解してくれない」「担任の言動が気に食わない」といった学校の対応への不満が主訴であったりすることもある。この場合の結論は単純で、学校に言うしかないんです。というのも、親からすると、わが子が学校でどうすごしているかはなかなか見えません。その不安感が根っこにあるわけです。

 私が担任を受け持っていたころは年に1、2回、喫茶店で保護者たちの集まりを持ちました。そこでは、教員と親だけでなく、親どうしの関係性も生まれます。おたがいに交流できる土台があれば、感情的な衝突に発展するケースは減っていきます。ただし、最近ではそうした集まりを避けるむきがあるし、そもそも教員が多忙すぎるということで、いろいろやりづらさもあるのは理解できるので、一筋縄ではいかないな、と。

 話を戻すと、学校と距離をとる具体的な手立てのひとつとしては、学校のサービスをお断りすることを権利として明確にすることだと思っています。その意味で、「究極の学校とのつきあい方」というのは、学校に期待しすぎず、学校と適度な距離を置きながら、ときには親と子どもの意思を伝えていくということに尽きると思います。(了)



『お・は』は、1998年に創刊された季刊誌(年4回刊行)。通算100号となる特集のテーマは「学校でつまずかない人生」。創刊号の特集「学校でつまずく人生」に対する返信として組まれている。

 そのほか、バックナンバーには「親にできる進路アドバイス」(92号)、「行きしぶり・不登校、親の心がまえ」(92号)など、不登校関連の特集もある。本書の購入・お問い合わせは下記まで。

【『お・は』100号おもな目次】
●対談「先生から見た学校・教育~20年で、どう変わった?」
 (小学校教員・岡崎勝/小学校教員・大和俊広)
●心配なのは手助け「不能症」と「忖度症」(精神科医・石川憲彦)
●ぜひ積極的に学校に「ものをいって」(社会学者・江原由美子)
●「発達」を目標にすれば、人生が遠くなる(心理学者・浜田寿美男)
●「大丈夫」が力を持つとき(フォロ事務局長・山下耕平)
●自分のセンスを信頼する(作家・安住磨奈) ほか

【ジャパンマシニスト社】
(TEL)0120-965-344

【プロフィール】

(おかざき・まさる)
1952年、愛知県名古屋市生まれ。小学校教員。『おそい・はやい・ひくい・たかい』編集人。おもな著書に『ガラスの玉ねぎ―こどもの姿を写し出す1年白組教室通信 』、『学校再発見!―子どもの生活の場をつくる』など多数。

■フリースクール「アーレの樹」
住所:愛知県日進市梅森台4-66
電話番号:052-807-2585
FAX番号 :052-846-7005
FB:アーレの樹

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