不登校新聞

489号 2018/9/1

学校に行きたくないあなたへ 僕は君に生きてほしい

2018年08月31日 10:49 by koguma
2018年08月31日 10:49 by koguma



 今回のインタビューは、女優の春名風花さんにお話をうかがった。春名さんが小学生だった2012年、朝日新聞の企画に投稿したコラム「いじめている君へ」が8月20日、絵本として出版されることになった。絵本に込めた想いとは何か。高校生となった今、いじめをどう考えているか。そして、今の時期に子どもの自殺が増えることについても、うかがった。

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――絵本を出版するにあたって、こだわった点についてお聞かせください。

 今回の絵本は、2012年に僕が書いた「いじめている君へ」がベースになっています。当時、多くの反響をいただきましたが、読んでくださった方の多くは大人だったと思います。

 でも、僕が話をしたいのは子どもなんです。なるべく絵で見せるということにこだわりたかったので、僕が以前からファンだったみきぐちさんにお願いしました。本のサイズや質感にも気を配り、お守りのように長く持ち続けてもらえる絵本を目指しました。

――個人的には表紙の絵に心を揺さぶられました。春名さんのお気に入りの絵は?

 ひとつは、子どもが自分の顔を両手でおおっている絵です。最初にいただいたラフでは、手のひらが外側を向いていたんです。でも、いじめでつらいときには、手のひらは内側に向くような気がして。

 そのほか、いじめに関する記事をいろいろ引っ張ってきて「どういう絵ならば、この子に届くだろうか」と、装幀の担当者も交えて何度も話し合いました。

 絵本のなかでは「命」の話もしています。みきぐちさんが描く生々しいまでの赤ちゃんの絵に魅了されたことが今回のご縁にもつながっているので、赤ちゃんの絵は欠かせないって思ったし、子どもが無邪気に駆けていく足の部分だけを描いた絵も好きですね。少しだけ、はかなさを感じるというか。あとは仔猫の絵も…って、あげ始めたら全部になっちゃいますね(笑)。

送信機と受信機 何とかすべきは

――春名さんは、いじめに関するインタビューでも、「いじめている子」にフォーカスした発信を続けています。どういう思いからなのでしょうか?

 悪い情報しか発しない送信機があったとしたら、受信機が壊れないかぎり、やりとりは止まりません。

 かりに受信機が壊れたとしても、今度はそのとなりにある別の受信機に対象が移っていくだけ。だったら、送信機をどうにかするしかないって思うんです。


 それに、「いじめたい」という気持ちは、人間誰しも心のなかに持っていると思います。だからこそ、「いじめている子が悪い」と単純に結論づけてしまうのがイヤなんです。

 僕自身、これまでいろんなバッシングをあびてきました。ツイッターも昔から使っていますが、攻撃的な返信は今も飛んできます。

 ただし、僕を傷つけてくる人も、日常生活では別の顔を持っている。それに気づいた瞬間、「僕が見ているのはその人の一部でしかないということを忘れちゃいけないんだ」と思うようになりました。

 もちろん「いじめられている子」は痛いし、つらいし、「いじめている子」を憎んでもいいと思う。

 けれど、第三者が考えるべきは「いじめている子」のことで、送信機をどうやって止めるかという結論に向けて、みんなで知恵を出し合うことなんじゃないかなって。

 そもそも、狭い空間に30人も詰め込まれて、気の合わない子もたくさんいるのに、そのなかで誰とでも仲よくやっていけるスキルを身につけましょうという制度自体がおかしいと思います。

 「いじめている子」「いじめられている子」「いじめを見ている子」「いじめを止められない先生」のことを悪く言う前に、制度は悪くないのかということです。で、僕は悪いと思っています。

キャラづけする雰囲気がダメ

――制度の問題というと、具体的には?

 選択の自由があまりになさすぎます。義務教育は、誰もが平等に教育を受けられなくてはならないのに、ひとたびいじめが発生したら「いじめられている子」が転校しなければならない状況さえ出てくる。これは平等じゃないですよ。

 僕は今、単位制高校に通っています。だから、なおさらそう感じるのかもしれませんが、いじめにおける最大の問題は「人間関係が固定されてしまうこと」だと思います。固定した集団のなかでは、リーダーっぽいとか、いじられやすいとか、一人ひとりをキャラづけしてしまう雰囲気ができやすい。

 そうならないためには、授業ごとにクラスメートが入れ代わるような、柔軟な環境を義務教育段階から導入したほうがよい、というのが僕の考えです。制度を変えるというのは、そんなかんたんな話じゃないと思います。

 では、どうすればいいのか。「演劇」を授業の一環として取り入れること、これが僕のおすすめです。ふだんの自分と異なる立場を演じることで、いろんな気づきが得られるし、「閉鎖された空間内に流動性を持たせる」ということにもつながりますから。

 『高校生新聞』の取材を受けたときに「有名な方がいじめについて話しているだけで、ひとりじゃないと思えてうれしかった」と言われました。

 すごくうれしかったけど、一方で「誰かの心を支えるなんて、僕にはできない」という気持ちがあるのも事実です。

 君が強かったんだよ、ただそれだけのことなんだって。だから、「大丈夫だよ」とか「将来は幸せになれるよ」なんて、軽々しく言えません。

 言えることがあるとすれば、「あなたはたくさんの人の運命に関わっているから、いなくなってほしくないと僕は思っている」、そして「僕が元気なときに会いに来てくれたら、僕が喜ぶよ」ということぐらいです。

――「私はこう思う」というアイメッセージですね。

 僕は、それが正解だと思っています。先日、「それでも世界が続くなら」というバンドのボーカル・篠塚将行さんとお話する機会がありました。「『あなたのために』は『あなたのせい』になる」という篠塚さんのお話は、まさにその通りだなって。「春名風花はこう思っています」と言い続けることで、ほんの少しだけ影響を与えられるかもしれない。それを信じるしかないんです。

 もちろん、僕がすべて正しいわけじゃありません。僕の考えをそのまま受けいれてしまうのではなく、いろんな人に会って、いろんな話を聞いて、自分だったらどれがいいかなって考えて、自分自身を構成していくのがよいと思います。

君は絶滅危惧種 うなぎよりすごい

――8月下旬から9月にかけては、子どもの自殺が多い時期でもあります。春名さんは、誰に向けて、どんなアイメッセージを発信しますか?

 特定の誰かではなく、すべての人間に対し、朝起きたときに「自分はすごい!」って叫んでほしいなって思っています。

 「自分はすごい!」と考えることは、自我を大切にすること。自信は裏切らないし、自信を持っていれば、他人を自分より下の立ち位置に落とし込む必要もなくなるんです。


 何より、君という人間は地球上にたったひとりしかいないから、本当にすごいんです。君がいなくなってしまったら、その種は途絶えてしまう。僕は「絶滅危惧種」と呼んでいるんですが、もはや、うなぎの比じゃないんですよ。

 ジグソーパズルにたとえれば、今いる場所に自分のピースがはまらないことがある。けれど、それは君に問題があるわけじゃなくて、そもそもちがうパズルなんです。君がきちんとはまるパズルは別のところにあるはずです。

 もし、今いる場所が君のすごさを認められないような場所ならば、捨ててしまっていい。逃げるっていう言い方よりも、捨てるっていう表現こそ、僕は必要だと思う。

 君をいじめてくるような人は、君の人生にとって必要な人じゃありません。その人とこれから一生付き合っていくわけでもないから、がんばって気に入られようと無理をする必要もないんです。

 いじめ以外にも、つらいことはいろいろあると思う。ふと、あきらめたくなるときもあると思う。でも、君が今いるそこがすべてじゃない。いつか、僕と出会い、話をする日が来るかもしれない。だから、僕は君に生きていてほしい、そう思っています。

――ありがとうございました。(聞き手・小熊広宣)



■□春名風花さんの新刊□■
『いじめているきみへ』
文・春名風花 絵・みきぐち
朝日新聞出版/1200円(税別)

【プロフィール】
(はるな・ふうか)
2001年神奈川県生まれ。女優、声優。「はるかぜちゃん」の愛称で知られ、舞台やツイッターなど幅広い場で表現活動を行なう。著書に『少女と傷とあっためミルク』(扶桑社)など。

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