20年前に韓国で「代案教育」を推進した趙韓惠貞(チョハン・へジョン)さんは、現在、そこに希望はないと言う。韓国の子ども・若者をめぐる状況はどうなっているのか。どこに希望を見いだしていけるのか。韓国・済州島でインタビューした。
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――韓国の子ども・若者をめぐる状況は、日本と似ているものの、とても苛酷だと聞いています。
本当に苛酷な状況です。日本には、まだしも社会が個人を保護するシステムがありますが、韓国では、個人を守ってくれるものは家族しかないと言えます。
その背景には、儒教文化や家父長制もありますが、それだけではなく、日本による植民地支配や朝鮮戦争を経て、韓国の国民には、社会や国が自分を守ってくれるという観念がないんですね。
信じられるものは家族しかない。家族と自分たちの力だけで生きていくしかない。そこで、学歴競争が過熱している。
しかし、韓国では、一流大学を出ても正社員になれる人はほとんどいません。ほとんどは契約社員です。
ただ、単純には言えないのは、韓国のほうが問題が顕在化しているということであって、日本でも基本的な状況は同じですよね。
激しく見えることが、よりひどいとはかぎらないと思います。韓日に共通する問題は、圧縮した近代化がもたらした問題と言えます。
不安によって強まる学歴主義
――近代化は、いろんな問題を生み出した一方で、市民社会をつくっていけるという希望もあったと思います。韓国で言うと、87年の民主化運動を経て、97年の金融危機ぐらいまでは希望として見えていたことがあったと思いますが、その後、現在までの20年は、新自由主義が強まった時期ですね。
87年の民主化運動からの10年間は、政治的にも文化的にも市民に勢いがあって、華やかな時代でした。ハジャセンター(※1)も、そういう市民の力でつくられたんです。
しかし、97年の金融危機で生存が脅かされて、その不安から、みんなが保守的になってしまいました。
そこで、また家族主義に戻って、子どもをよい大学に行かせようという傾向も、さらに強まっています。
――日本では、学校でも会社でも、所属すること自体に価値があるとされてきました。だから、不登校も大きな問題となってきたのですが、韓国の場合は、そこはちがいますでしょうか?
日本のような意味で、学校に行かないことが苦しいということは少ないと思います。韓国では家族の力が強くて、家族が支援さえしてくれれば、個人としていられます。
日本は、ある意味では韓国よりも集団への所属意識が強いですから、個人としているのがたいへんでしょうね。
ただ、韓国でも、新自由主義が強まるなかで、所属が重視されるようになってきています。
なぜなら、家族が崩れてきていて、個人しか残らなくなってきたからです。そこで、学校という最低限の所属感が重視されるようになってきていると思います。
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