【質問】現在、息子のことで困っています。中学で不登校になり、その後は通信制高校に入学したのですが、思うように登校できない日々が続いています。そんななか、数カ月前から息子が家のなかで暴れるようになりました。夜中に大きな声を出したり、部屋の物を投げて壊したりします。「何が不満なの?」と聞いても返事はありません。暴れる矛先が家族に向くことはないのですが、ご近所さんの眼などもあり、何とかやめさせる方法はないかと苦慮しています。
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いわゆる家庭内暴力の矛先が、物へ向かう場合と人へ向かう場合とでは、雲泥の差があります。
物は壊れても心はそんなに壊れませんが、人が傷つくと、傷つけられた人の心はもちろんのこと、傷つけた人の心も壊れる場合が多いからです。
ただ、幸いにも(といっては少し語弊があるかもしれませんが)、物への暴力から人への暴力へ飛躍するまでには、通常かなりの年月を要します。
つまり、物への暴力にとどまっている期間は、それなりに長いですから、その期間のうちに、周囲の大人はしっかりと考えを練り直すことができるのです。
考えを練り直すとは、暴力対策のノウハウを学習することではありません。
暴力を消そう(「ご近所さんの眼」に配慮して暴力をやめさせよう)とするのではなく、「何が不満」なのかを、大人が想像することです。
ほとんどの場合、子どもが「不満」に思っているのは、自分自身の現状についてです。たとえば、通信制高校になら行けるだろうと思っていたのに、そうではなかった自分についてです。
しかし、通信制高校になら行けるだろうという考えは、はたして自発的な考えだったのでしょうか。自発的に見えても、周囲の大人たちの考えに合わせていただけではないのでしょうか。
そこをまず大人たちが考え直すのが、考えの練り直しにほかなりません。
具体的に例を挙げてみましょう。通信制高校に行くことが決まったとき、あなたは喜んで励ましていなかったでしょうか。
もしそうなら、あなたは何を喜んで、何のために励ましていたのでしょうか。そう自省してみると、世間体(まさに「ご近所さんの眼」ですね)のために喜び、世間体のために励ましていたことに気づくことが、しばしばです。
子どもも、大人の気持ちを先まわりして取りいれ、自分の行動を世間体に合わせようとしている場合が、少なくありません。
そういう自省だけが、子どもの自分自身に対する不満を緩和し、暴力を緩和させるのです。その点に気づけば、あなたがすべきことは一つしかありません。それは、何もしないことです。
壊された物がガラス製品などのケガをしやすい物であれば、最低限の片付けが必要でしょうが、それ以外は、壊れた壁や家具を、目に見える形で残しておくほうがいいのです。
残しておけば、あなたの自省もまた持続しますが、片付けてしまうと、自省も忘れ去られ、ふり出しに戻ってしまうでしょうから。(高岡健)
(たかおか・けん)1953年生まれ。精神科医。岐阜県立希望が丘こども医療福祉センター・児童精神科部長。著書に『不登校・ひきこもりを生きる』(青灯社)、『引きこもりを恐れず』(ウェイツ)など多数。
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