不登校新聞

500号 2019/2/15

不登校になった自分の過去、20代になって整理できるように

2021年05月13日 23:01 by kito-shin
2021年05月13日 23:01 by kito-shin



 2018年12月9日、東京都北区にてシンポジウム「不登校の人が一歩を踏み出す時」が開催されました。(主催・全国不登校新聞社)。不登校経験者が、自身の進路などについて話したようすを抄録します。(編集・茂手木涼岳、協力・飯島章太)。

 * * *

 ザンヌ(仮名)と言います。今は大学3年生です。小学校1年生の終わりから3年間不登校でした。きっかけは、父親の暴力です。父はふだんは優しいのですが、かんしゃく持ちで、ちょっとしたきっかけでキレる人でした。小学校2年生のはじめごろから、ささいなことから父親に、強く足を蹴られ、数日ほどまともに歩けなくなりました。自分は人目をよく気にする子どもでした。このまま学校へ行くと「なぜ歩けないの?」と聞かれてしまう。それが恐くて、学校へ行けなくなりました。足が治ったあとも、がんばって学校へ行こうとしたんですが、登校してもクラスメイトの目が恐くて教室に入れず、保健室や職員室、図工室などにいました。3年生~4年生のころ、自分が別室にいると、担任の先生が自分の手をむりやり引っ張り、教室へ連れて行こうとしました。自分は泣きながら必死で抵抗し、結局、教室には行きませんでした。

 そういったことが毎日のようにありました。こうしたなかで、「みんなと同じようにできない」という気持ちがそのころの自分に重くのしかかりました。一方でなぜ自分が不登校になり、学校へ行ってもクラスに入れないのか。「父親の暴力が原因である」と認識するまでには、かなりの時間がかかりました。学校に「ふつうに」行けるようになったのは5年生のときです。担任の先生が「ザンヌさんが来たいときにきていいのよ」と言ってくれ、また、クラスメイトにも、自分が教室に入りづらいと感じている想いを話してくれました。そのおかげで、少しずつ教室に行けるようになり、夏ごろにはみんなと同じように学校へ通えるようになりました。それからは、ずっとやりたかった野球も始め、小学校を卒業するまで充実した日々でした。しかし中学に入ったとき、親の無理解により野球が続けられなくなりました。これは自分を失うほどのできごとでした。また、中学1年生から2年生までのあいだは、ひどくいじめられ、3年のときには教室に居場所を感じられず、孤独感から学校をたびたび休みました。

“人生を変えるんだ”

 「このままではいけない、自分は人生を変えるんだ」と、高校受験の際には毎朝4時に起きて必死で勉強し、当時やっていた陸上が盛んな高校に、なんとか入学しました。これですべてがよくなると思いましたが、高校入学後も、クラスになじめず、それまで無理してがんばってきた陸上にも熱が入らなくなり、最終的には、高校を中退することになります。「どうしてオレの人生は、こんなにがんばっているのに、よくならないんだ」とひとりで考える日々が続きました。そしてこれまでをふり返り「こうなったのは父親のあの日の暴力と、それをずっとまわりに隠してきた母親のせいだ」と気づきました。父に蹴られてから8年後のことです。それからは両親にかなり強く当たりました。「あんたらのせいでこうなった」と何度も詰めより衝突しましたが、父親には「おまえがそのとき騒いだのが悪い」と逆上され、母親はただ呆然とうなだれているだけでした。その後も、またすべてを変えたいという思いから、アメリカに留学するのですが、そこでもうまくいかず、親には見捨てられ、絶望的な日々が続きました。

当事者会に参加

 それからもさまざまな場所を行き渡りましたが、人とうまく関われず、「もしかしたら、自分の今の状態はひきこもりの人に近いのでは」と感じるようになりました。それからはひきこもりの当事者会や、『不登校新聞』の「子ども若者編集会議」などに参加するようになりました。そうしたなかで、じょじょに自分の過去と向き合えるようになり、心を回復していったように感じています。

 今は『不登校新聞』で出会った友人の勧めで、通信制の大学に通っています。現在、政治経済を中心に勉強していますが、将来、なんらかのかたちで社会に貢献し、子どもたちが自由で、安全が保障され、立派な人間へと成長していける社会をつくっていければと思います。そのためにも、過去をしっかりと見つめ、そこから感じ学んだことをいろいろな方と共有していければ、と思っています。(ザンヌさん/20代・男性)

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