連日、「中高年のひきこもり」が話題になっています。きっかけは川崎殺傷事件と練馬での元官僚の父親(76歳)がひきこもりの息子(44歳)を殺害した事件でした。事件とひきこもりを短絡的に結びつけるのには疑問ですが、今回はひきこもり経験者・杉本賢治さん(57歳・北海道在住)は事件をどう見たのかをうかがいました。
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――ご自身のひきこもり経験と現在の生活のようすを教えてください。
私がひきこもったのは高校中退後の10代後半と、その後、大学卒業後からの20代後半です。ひきこもりの期間は累計で9年ほどですが、今も正社員としては働いていません。
おもに清掃のバイトをしていますが、母と二人暮らしの生活費は父の遺族年金などでまかなっています。
現在の生活は「半ごもり状態」というところでしょうか。完全なひきこもりではなく、半分ぐらいひきこもっている。
その理由は、バイト以外に個人的なインタビュー活動をしていて、自分の働き方のために時間を割かれるからです。
2年前から母が認知症になり、要介護状態になりました。兄弟は離れて暮らしていますので、私が母の世話をしています。
そういう意味では「8050問題(親が80歳、ひきこもる子が50歳と親子で高齢化する問題)」のど真ん中にいますが、誰にでも起きる話であって「8050問題」はいずれ社会の問題になると思っています。
ただ、いまの「8050問題」の取りあげ方は社会問題ではなく、社会の病理という捉え方でしょう。それはあまり生産的な議論ではありません。
――川崎殺傷事件や練馬事件の報道を見て、どう思われたでしょうか。
一連の事件によって、ひきこもりは「犯罪者予備軍だ」という印象が強くなったのはまちがいありません。
ただ、それはごく一部の人のことであり、私自身は通り魔など想像もつかないです。それにもかかわらずひきこもり全体のイメージとして事件が語られるのはまちがっていると思わざるを得ません。
もちろん、孤立感や絶望感が深く、理不尽な目にあった人は暴発することもあるでしょう。それはひきこもりだからというより、人のなかにあるさまざまな感情の混乱だと思います。
一方、そういう孤独感が強い人や、ひきこもっていて本当に苦しんでいる人に対して、どうすればいいのか、という疑問もあるかと思います。
私の場合は、家にも学校にも居場所がなくなり、中学生のころから自分が醜いという強い妄想(醜形恐怖)にとらわれました。
救われたのは、セラピストとの出会いです。その先生は、私の話をさえぎらず、否定もせず、説得もせずに、最後に「つらいでしょうね」と言ってくれたんです。
そこから変わりました。「世の中いろいろな人がいるなぁ」と思えたからです。
もちろん、すぐに苦しさは抜けませんでしたが、頭のどこかで「わかってくれる人がいる」と思えたんです。
いまは、さまざまな分野の研究者へのインタビューを通して「人と出会うことでワクワクする」という経験を積み重ねています。
苦しくても「この世に生まれた自分を殺したい」とまで思わなかったのは、苦しさに共感してくれた人と出会えたからだと思うんです。(聞き手・石井志昂)
ひきこもりで困ったら
■新ひきこもりについて考える会/東京
東京で長く当事者、親、支援者が対等に話し合う場として開催されています。参加者の安全性を守るため、メール連絡があった人にのみ開催情報の詳細を伝えています。(参加費無料/連絡先h-kangaerukai01☆freeml.com(☆を@に変えてください))」
■ひ老会/東京
ひ老会は、中高年のひきこもり当事者や親のための会。参加費は「献金制(カンパ)」で、ワンコインから1000円ぐらいまでの人が多いようです。場の安全を図るために参加が確定した方にのみ開催情報を伝えています。(連絡先 vosot_just☆yahoo.co.jp(☆を@に変えてください))
ひきこもりに関する全国的な情報は「ひきぷら」にも掲載中。
すぎもと・けんじ/1961年、札幌市生まれ。高校を中退後と20代後半に長期間、ひきこもった。ひきこもり期間は累計9年半。現在はフリーターのかたわら、『ひきこもる心のケア』(世界思想社)を出版。WEBサイト「インタビューサイト・ユーフォニアム」運営。
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