不登校新聞

304号(2010.12.15)

【公開】論説「いじめ自殺と責任の議論」

2013年10月09日 13:55 by kito-shin
2013年10月09日 13:55 by kito-shin



◎桐生市小6女児 いじめ自殺と責任の議論


 群馬県桐生市で小学校6年生の少女が自宅で首を吊って亡くなった。10月23日のことである。

 そして、この事件でも「いじめと自殺」のテーマが問題として前面に引き出され、「ほんとうにいじめはあったのか」、「自殺はそのいじめが原因なのか」と、この何十年来くり返されてきた議論がふたたびマスコミをにぎわせている。

 4年生の秋に愛知県から転校してきた少女は、5年生のときにフィリピン国籍の母親の容姿をからかわれ、それ以降いじめが目立つようになり、6年生になってからも仲間外れにされたり、悪口を言われたりして、学校も休みがちになっていたという。亡くなる2日前、校外学習に参加したときには、同級生に「何でこんな時だけ来るのか」と言われて、担任に訴え、つらさに耐えられず、大声を上げて泣いたと報じられている。
 
 少女が亡くなった後、両親は「自殺の原因はいじめだ」として訴えたが、学校側は当初「いじめがあったとは認識していない」として認めなかった。しかし、2週間後、子どもたちへのアンケート調査で、複数の子どもたちから「くさい」などの心ない言葉が投げつけられ、仲間どうしで食べる給食も一人で食べていたことが判明して、学校側が記者会見を開き、いじめがあったことを認めて謝罪した。しかし、そのうえで「自殺は予測できず、直接的な原因は特定できなかった」と、なお自殺との因果関係は否定したという。

 "いじめ自殺を否定” どれほど見てきたか

 こうしたやりとりを、私たちはこれまでどれほど見てきたことだろうか。学校や教育委員会は、いじめのあったことをできるかぎり否定しようとし、それを認めざるをえなくなったときには、なお自殺との因果関係は認めようとしない。この種の組織防衛が問題の根をますます見えにくくしているのだが、彼らはそのことに気づいているのだろうか。

 人どうしが生き合う関係社会にいざこざはつきもの、それは人の世に常態であって、けっして例外的なものではない。人はそうしたトラブルになんとか決着をつけながら社会を構成しているのである。もちろん、このトラブルが誰かの死に至るようなことだけは避けたい。それは会社であれ、学校であれ、家族であれ、どんな組織であっても同じである。そうだとすれば、現に自殺者が出たとき、自己防衛的にその原因を外にそらそうとするのではなく、なぜその人が自殺しなければならなかったのかを、組織そのものの問題を含めて、真摯に、そして積極的に究明するのが筋であろう。

 責任の追及は、本来、その事実の確認の後になされるべきものである。ところが現実には、事実を確認する段階で、すでに責任問題が前面に出て、責任追及を受ける側が防衛的に対応して、真摯な確認を回避するようなことが起こる。結果として、問うべき問題が問われないままに終わる。こうしたことが、これまで何度もくり返されてきた。誰に責任があるという以前のところで、少女は学校という場をどのように生き、なぜ自死を選ぶことになったのかを見つめるべきではないのか。そこでは狭い意味での「いじめ」問題を超えて、いまの子どもたちにとっての学校の意味があらためて問われることになるはずである。

 少女は5年生のとき、自己プロフィールの願い事の欄に「学校を消すこと」と書いていたという。しかし、少女は結果的にこの学校によって消されたのである。同年齢の子どもたちを狭いクラスに集めて、その閉鎖集団のなかでむき出しの人間関係を強いるという学校の場の構図が、いま子どもたちに何を強いているのか。そういう目で出来事を見なおす時がいま来ているように、私には思える。(奈良女子大 発達心理学専攻・浜田寿美男)

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