不登校新聞

515号 2019/10/1

「ひきこもったまま出馬し落選」あきらめて楽しんでる41歳男性の半生

2019年09月26日 11:57 by shiko

 今回は、ひきこもりながら市議会選挙に出馬した、さとう学さん(41歳)のインタビュー。精神的に追いつめられているときは「0か100か」の極端な考え方になりがちだが、さとうさんは、無職か正社員かといった枠に縛られず、たくさんの「横道」にそれていく生き方をしてきた。ユニークなライフスタイルはどこからくるのか。その秘訣をうかがった。

* * *

――さとうさんは、2017年に埼玉県の入間市議会議員選挙に出馬されました。どのような選挙戦だったのでしょうか?

 当時は、無職のひきこもり状態のまま選挙に出ました。体調もよくなかったので、選挙期間中はほとんど寝込んでいました。

 活動ができたのは実質2日くらいで、当然ながら結果は落選。ですが、当選ラインの半数以上の票がとれたおかげで、供託金は戻ってきました。

 近所の人からは、「知名度が上がったので、今度出馬したら当選するよ」と言われています(笑)。

――顔や名前を出して活動することに、不安はなかったのですか?

 まったくなかったです。そもそも地方選なので話題になるとも思いませんでした。たとえ有名人でも、1年前の不祥事なんて、誰も話題にしなくなるでしょう。

 それなら俺ごときが何をしようが、「失うものは何もない」と思っていました。そんなふうに考えて、自暴自棄になったらいけませんけど、よい方向にいけば強みになることだと思います。

 今の日本って「正社員や公務員にならないといけない」という重圧で、すごく窮屈ですよね。

 「失うものは何もない」くらいの気持ちでいるほうが、選挙に出たり起業したりして、新しい挑戦ができると思います。

思い立ったら失敗しよう

 世間には評論家みたいな人たちがいて、「変わったことをやっても、どうせ失敗するよ」と言うんですよね。

 それはたしかに、そのとおりだと思います。実際に9割は失敗するから、世間の評論家は「ほら見たことか」と言えてしまう。

 ですが、失敗の回数を増やさないと、成功もできない。失敗したときに、「失敗イコール何も考えてない人」ではなくて、「失敗イコール挑戦した人」みたいな見方になったら、みんなハッピーになれると思うんですけどね。

なので俺は、「思い立ったら失敗しよう」と思っています。「〇〇ができなかった」という減点主義よりも、「〇〇ができた」という加点主義でいきたい。

 もちろん、それでダメージを受けるときもありますが、そのときはそのときで、しかたがないですが(笑)。


2017年に出馬した際のポスター

――ユニークな活動を多くしていると思うのですが、人生で一番苦しかったのは、いくつのときですか?

 やっぱり不登校になったときでしょうか。小学校3年で不登校になり、親がむりやり学校に行かせようとしていた時期です。とくに父親は厳しかったです。

 朝は自分の出勤時間が来るまで、俺の耳元でずっと目覚まし時計を鳴らしけてきました。会社から帰ってからも、俺を正座させて、「明日は学校に行きます」と言うまで寝かせませんでした。

 あるときは、夜中に車で遠くまで連れて行かれ「通学しないと置き去りにするぞ」と言われたこともあります。8歳の子にとってそれは恐怖だから「行きます」と約束するしかない。

 だけど朝になったら、やっぱり行けないので、父からは「嘘つき」と叱られる。地獄の日々でしたね。

 それがなくなったのは、俺が目に見えて精神を病んだからでした。手洗いが続く強迫性障害や、幻覚の症状が出てからは父親も登校圧力をかけなくなりました。

死ぬしかない、そう思ってた

 もうひとつきつかった時期は、30歳をすぎてから母親が亡くなったときです。家のなかで仲の悪い父親と二人きりになったということもあったし、年齢のこともあって精神的には追い詰められていました。

 当時、俺は福祉作業所に通いながら、なんとか自分で働こうとしていました。だけど、うつ病やパニック障害もあって、全然、続けられない。

 派遣の仕事もしたけど、労働環境も悪かったんです。人材派遣会社「グッドウィル」で働いてましたが俺には「バッドウィル」(笑)。

 そもそも「30歳をすぎてひきこもりなら死ぬしかない」とさえ思っていたんです。10代のころの不登校なら、まだ巻き返せるけど「30歳でひきこもりは現実的に考えてまずいぞ」と。

――40歳をすぎた今は、楽観的になりましたか?

 いやあ、どうだろう。今でも、調子が悪いときは1日に20時間くらい横になっているときがあります。夢かうつつかの状態がずっと続いているような感じです。

 不登校の時期も合わせると、俺はたぶん23年~24年くらいひきこもっている。人生を損していると思うこともありますが、「あきらめれば道は開ける」とも思っています。

 失うものがないから、それだけ行動ができる。たくさん行動していたら、確率論的にも、何かにつながる可能性が高くなっていきます。

 何もない一日がくり返されるというのは、俺にとってはとてもきついことです。じっとして一日がすぎていくよりも、なんらかの活動をしていれば、人生の糧になるなと感じています。

 失敗しても、「あ、これは話のネタになるな」と思えたら強いですよね。だって自慢話よりも失敗話のほうがウケるでしょ。

 選挙のことも、すごく疲れたけど、「ひきこもりが立候補した」こと自体はネタになりました(笑)。

 ミクロ(微視的)で見れば出馬は失敗だけど、マクロ(巨視的)で見れば成功と言える。一回の行動よりも、人生全体で見られたらいいのだと思います。

 なので「あきらめれば道は開ける」と思っている真意は、一日というミクロではあきらめるけれど、一生というマクロではあきらめない、という感じかな。

――ミクロな話になりますが、今はどんな毎日を送っていますか?

 ひとつは、手のひらサイズの「豆本ドールハウス」づくりをしています。ブログで俺の記事を読んでくれた人が、ネットで声をかけてくれて、制作を手伝うようになりました。

 不定期で仕事場に出かけていき、内職をする感じで、お給料も出ます。インスタグラムのおかげで有名になって、世界中の人が買ってくれるから、あらためて「IT革命はすごいな」と思った。

 仕事にかぎらず、生活の軸になるものがあると、ペースがつくれるのですごしやすくなります。完全に自由だと、行動する力も起きてこないから、「ゆるやかな強制が必要」というのが俺の持論。

小さく稼ぐ

 それと、居場所で知り合った人との縁をきっかけにして、数年前から「セドリ」をやるようになりました。

 セドリというのは、衣類や本などを安く仕入れて、別のところで売る転売業のこと。古物商の許可証もとっています。意識してみると、けっこういろいろ見つかるんですよね。

 リサイクルショップなどではスニーカーが2000円で売っていますが、品番を頼りにネットで検索してみると8000円で取引されていることがありました。

 リサイクルショップで仕入れてネットで売ったら6000円の儲けになりますよね。セドリを始めたときは、ひきこもりの状態だったので、社会と接点を持つためのリハビリとしてもけっこう役に立ったなと思います。

 セドリを教えてくれたのがおもしろい人で、ひきこもり向けの居場所に、空っぽのスーツケースで来るんです。俺が驚いて「何これ?」と聞いたら、「帰りにリサイクルショップに寄って、仕入れをしながら帰る」と言う。

 「うわぁ、めちゃくちゃカッコいい」と思いました。転売業なんてたいへんで、俺にはとてもできないと思っていたけど、やってみたら意外とかんたん。リサイクルショップのセールの日を狙って、たくさん買って帰るんです。

 自転車で何十キロも移動するから、たまに筋肉痛で動けなくなりますが(笑)。

 いつかやってみたいのが「遊牧民セドリ」。旅行をしながら安いものを買って、自宅にダンボールで配送するんです。そうしながら長く旅を続けていく。ちょっとした冒険みたいな感じに憧れています。

――「正社員になるべきだ」というプレッシャーを、感じることはありませんか?

 今も昔も、まったくないです。20歳をすぎたころに経営コンサルタントの大前研一さんに影響を受けたせいかもしれません。

 大前さんの本を読んで俺はすごく鼓舞されました。世界中で起業する人がいる時代に、正社員がどうのこうのなんて、「なんてスケールが小さいんだろう」って。

横道にそれたら生きやすく

 もっと言えば正社員へのプレッシャーを受けないために、みずから横道にそれているのかもしれません。

 会社員生活をしていると、世間からあれこれと評価を受けてしまう。だけど選挙への出馬とか、「遊牧民セドリ」とか、人と比べられないことをしていると、土俵がちがうので評価ができない。

 世間と自分の生き方のレイヤー(層)を、別のものにするという感じです。ちがう土俵で生きて、人生の住み分けができるようになってから、俺は少しだけ生きやすくなったと思います。(聞き手・酒井伸哉)

【プロフィール】
(さとう・まなぶ)小学3年生のときに不登校になり、20年以上ひきこもる。また、ひきこもり支援のために市議選に立候補した。「note」https://note.mu/buriko555

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