幼稚園の運動会の練習が続くなか、ある日、「運動会には出たくない」と息子のたけるから伝えられました。
しかし、私はがんばって乗り越えたら自信につながるのではないかという期待が拭えず、どうしたらがんばれるかに気持ちは向けられていました。
がんばりたい気持ちはある?
私「どうしようか。どうしてもダメなら出なくてもいいとは思う。でも、がんばれる方法があるなら工夫して乗り越えたいと思うんだけど、どうすればがんばれるとか、何か希望ある?」
子「ん~、ずっとママがいっしょにいること?」
私「入場行進も、だよね? 本番も」
子「うん」
私「……わかった、そうしよう」
たけるとの話し合いの結果を夫に報告しました。
「じゃあ、俺もがんばらないとね。前日の準備とかも」
「ありがとう。でもさすがに入場行進は目立つよね」
「帽子を買って先生と同じような恰好してさ、先生のようにふるまったらわからないかもよ」
「そうだね。支援員の先生もいらっしゃるわけだしね」
たけるは、熱が下がって回復するまで3日間はお休みし、登園と運動会の練習を再開しました。
練習の合間のセミ獲りのときだけでも、たけるのワクワクした活気が見られるのが救いでした。
先生にも、校長先生にも、たけるのそばに付き添ういきさつをお話しました。
にっこりと「支援員の先生ということでよろしくお願いします」という校長先生からの言葉に私の肩の力が抜けました。
たんたんと進み
朝早く、お弁当を詰め、準備を整えます。私にとっても、親になって初めて経験する子どもの運動会。
たけるは、発熱したころからずっと表情は固いままですが、いやがるわけでもなく、たんたんと取り組む感じです。
保護者は保護者席のテントからの観覧ですが、それについてもたけるは断固NO!
とにかく私は支援員になりきり、夫は夫で割り当てられた係をまっとうします。梅雨と初夏の間の蒸し暑い気候のなか、入場行進が始まりました。
みんなもたけるも、真剣な表情。開会式が終了すると、思った以上に目まぐるしく競技は進みました。
たけるの固い表情は、お弁当の時間を含んで一貫していて、かけっこも、獅子舞もエイサーも、本当に一生懸命に立派にやり遂げて、私からすれば感動的でした。
しかし、たけるには笑顔はなく、涙もなく、つまり感情がどこかに切り離されているようでした。
思い出せば、夫婦で参加しなければならなかったPTAリレー中、私たちと離れざるを得なかったたけるは複雑な表情を浮かべ、心のなかで何かを閉じ込めているようでした。
しかし私は「でも、たけるはがんばった。明日は休みだし、その後は今までの生活に戻るし、時間が心身の疲れを回復させてくれる」と思っていました。
ところが、たけるの心に蓄積したダメージは思った以上に深刻だったのでした。(文・絵 斎藤暁子)
■著者略歴/(さいとう・あきこ)『HSC子育てラボ』代表。心理カウンセラー。息子たける(9歳)と精神科医の夫は、ともに敏感・繊細気質。著書に『HSCを守りたい』(風鳴舎)など。HSCとは/「Highly Sensitive Child」の頭文字を取った「HSC」は、心理学者エレイン・N・アーロン氏により提唱された概念。「ひといちばい敏感な子」などと訳されている。HSCは障害や病気の名前ではなく、生まれもっての気質。
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