わが子が幼稚園を辞める、小学校へも行かない。そんな選択をする日が来るなど、夢にも思いませんでした。
でも、私たちが授かったのは、息子のたけるです。たけるが、2歳か3歳のころ、お風呂のなかで、自分が生まれてきたのは「ママとパパに教えるため」だと言ったことがありました。
しかも、それは自分で決めたのでなく、「かみさまといっしょに決めた」と言うのです。
「子どもは親を選んで生まれてくる」と聞いたことがありますが、私も夫も、たけるから出てきたその言葉を信じました。
というのも、たけるの感受性の豊かさ、鋭さは人一倍だと感じてました。そして、ママが負の感情を自分のなかに閉じ込めてしまうと、たけるがそれをキャッチするかのように、ケガをしたり、嘔吐や熱など体調に表れたりもしました。
ママの感情とたけるの状態は、はっきりと連動しているかのようで、裏を返すと「ママが自分らしく生きられていない」という問題を現しているようでした。
たけるの態度や反応が、私にとっては『本当の私』になることへ導くメッセージが含まれているとも感じました。
でも、そのひとつひとつと向き合うのは苦しくて、負の感情を家族に向けたりして、たけるや夫を傷つけることになって何度も後悔しました。
あるとき七夕の短冊に書く願い事を何にするかと聞くと、「ママがにっこりしますように」とたける。にっこりできないときが多すぎたので、私の胸が痛みました。
「私が自分の殻を破り、自分らしい本当の自分を取り戻さなければ、この家族には本物の幸せはこない」。そう感じ、私はしだいに「生きることに真剣になろう」と思うようになりました。
たけるの幼稚園入園と退園を通して、私は今までやったことのない方法で自分の殻を破る経験をくり返してきたのだなとあらためて思います。
必要なスキルは
そこには、「自分の本当の気持ちやニーズに気づく」「自分の気持ちやニーズを適切に表現する・質問する・交渉する(協力や理解、必要なケアを依頼する)」「必要以上に遠慮しすぎない」「嫌だと思ったことには『NO』と言う」といったスキルが必要でした。
まわりや相手ばかりを優先し、自分をないがしろにしてきた私にとっては、身につけてこなかったスキルです。
そして、それはたけるの気質を尊重し、彼のペースや価値観を親が守っていくためには、なくてはならないスキルでした。
親の私に独自のアイデンティティーや自己肯定感が育っておらず、精神的に自立できていないのだから、子どもを自立させようとするより、まずは自分が育たないとダメだな……と何度も思ったことを覚えています。
たけるも、今は家庭という安全・安心な場で成長していくなかで、必要なスキルを身につけて、自分を守るシールドが強化され、これからも自分のペースで自分らしい人生を開拓していくのだろうと思います。
幼稚園での経験は、そのまっただなかにいるときは無我夢中でしたが、私たちそれぞれの人生に欠かせない一幕だったと思うのです。(文・絵 斎藤暁子)
■著者略歴/(さいとう・あきこ)『HSC子育てラボ』代表。心理カウンセラー。息子たける(9歳)と精神科医の夫は、ともに敏感・繊細気質。著書に『HSCを守りたい』(風鳴舎)など。HSCとは/「Highly Sensitive Child」の頭文字を取った「HSC」は、心理学者エレイン・N・アーロン氏により提唱された概念。「ひといちばい敏感な子」などと訳されている。HSCは障害や病気の名前ではなく、生まれもっての気質。
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