不登校新聞

525号 2020/3/1

子どもが不登校になったとき、親が腹をくくる必要がなぜあるか

2020年02月28日 11:38 by kito-shin
2020年02月28日 11:38 by kito-shin

連載「不登校・ひきこもりの家族が迎える5つの関門」vol.9

 不登校の親が迎える最後の関門は「子どもの人生は子どものものと腹をくくれるか」です。子どもの選択は、親や周囲からすると現実離れしていたり、頼りなく見えたりするものです。

 しかし、自己決定して行動すること自体が貴重な経験です。もし結果がうまくいかなくても、またいっしょに考えればよいわけです。そう思えるかどうかが最後の関門です。

 親は子どもの人生を歩むことはできません。人生の航路を進む船は、子ども自身が運航します。親は子どもに代わって舵を取るべきではありませんし、取ることもできません。

 その航路はとても厳しく、難所もたくさんあります。暴風雨もあるでしょう。親にできるのは、そんなときの避難港になることです。

 避難港で充分に燃料や食料を積み込んで、子どもの船は、また大海原に漕ぎ出していけるからです。

 最後に、関門の話ではありませんが、ケースワークの原則「秘密保持」について触れます。

 これは、ソーシャルワークの相談活動においては、もっとも基本的なルールですし、人と人の信頼関係を築くうえでも大事なことです。相談内容が第三者に筒抜けになるようでは誰も相談しません。

 ところが、学校では秘密保持の原則が軽視されている状況をしばしば耳にします。

 親が子どものことで先生に相談したら、数日後、先生が子どもに直接「お母さんが心配していたが」と聞いてしまい、子どもがショックを受けたという話もありました。

 このような行きちがいは「お子さんにも話していいですか」と先生が親に確認しないために、つまり秘密保持に無頓着なために起きてしまったことです。

 また、子どもが保健室で養護教諭にいろいろ話した内容が、担任教諭にも漏れて、子どもがショックを受けたという例も多いです。

 もちろん虐待や深刻ないじめが疑われるようなケースは、危機管理の面からも教師間で情報を共有すべき場合もあります。

 しかし前述の事例では、担任教諭が本人に話してよいかを、養護教諭と相談すべきです。養護教諭も子どもに対して、承諾を得る必要がありますし、本人が拒否した場合は、養護教諭が本人の相談窓口になっていくべきです。

 このような基本的ルールが軽視されるのは、子どもが「指導対象」であり、子どもに関わる情報をどう扱うかは「教師権限に属する」と考えてしまうからです。

 教師と子どものあいだに深い信頼関係があればよいのですが、その関係が危うくなったときは、秘密保持について特段の配慮が求められるべきです。

 これもつまるところ、子どもを独立した人格として、権利主体として受けとめているかが問われていることであり、不登校は、学校にとって己が問われている事態だと思うのです。

 これで最後ですが、最後に5つの関門をもう一度書いて終わりにします。(社会福祉士・精神保健福祉士 野村俊幸)

■不登校の親子が迎える5つの関門
第一関門「受容の入り口に立つ」
第二関門「非審判的態度で受容する」
第三関門「自分の態度をふり返る」
第四関門「子どもの進む道は一人ひとりちがうことを受けいれる」
第五関門「子どもの人生は子どものものと腹をくくる」

■著者(のむら・としゆき)/登校拒否と教育を考える函館アカシヤ会代表、道南ひきこもり家族交流会「あさがお」事務局。

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