不登校新聞

551号 2021/4/1

発達障害の「グレーゾーン」をご存じでしょうか

2021年03月31日 17:50 by shiko


ライター・姫野桂さん

 今回お話をうかがったのは、フリーライターの姫野桂さん。姫野さんは自身も発達障害の当事者として、発達障害に関する書籍のほか、当事者が直面する生きづらさを解消するためのライフハックを紹介・執筆している。姫野さんの子ども時代のエピソードや困っている子にどう接するべきか、うかがった。

* * *

 「発達障害」という言葉は、ここ数年でさまざまなメディアに取り上げられてきました。私も発達障害についての書籍を数冊刊行しましたが、反響をいただくたびに、あらためて発達障害という言葉の広まりを感じています。そもそも発達障害とは、生まれつきの脳の特性で、できることとできないことの能力に差が生じ、日常生活や仕事に困難をきたす障害のことを言います。発達障害は、ADHD(注意欠如・多動性障害)、ASD(自閉スペクトラム症)、LD(学習障害)の3種類に大別されています。かんたんに症状を紹介します。「ADHD」は、不注意が多かったり、落ち着きがない、多動・衝動性が強い。「ASD」は、コミュニケーション方法が独特だったり、特定分野へのこだわりが強い。「LD」は知的発達の遅れがないにもかかわらず、読み書きや計算が苦手。なお、3種類のうち「これだけが当てはまる」という人はほとんどいません。障害の程度や出方は人それぞれちがうので、苦手なことも個々にちがいます。

算数があるから行きたくない

 私自身も発達障害の当事者です。不注意が優勢のADHDと、計算が苦手なLDの特性を持ち合わせていて、幼いころから生きづらさを抱えてきました。とくにLDの特性は顕著で、くり上がりやくり下がりのある暗算やパーセントの計算がパッとできません。速さや距離を求める計算も、紙に書いて電卓を使わないと解くことができないんです。

 小学1年生から、みんながあたりまえに満点を取れるような計算テストでも、60点くらいしか取れませんでした。「こんなにがんばっているのに、なんでできないんだろう」という劣等感を抱え続け、小学4年生で算数の授業についていけなくなくなりました。母親には「算数があるから学校へ行きたくない」と言っても理解してもらえず、学校は休ませてもらえませんでした。算数ができないのは発達障害のせいだとわかったのは、大人になってからです。

 一方、コミュニケーションが苦手なASDの特性によって苦しむ人もいます。学校で何気ないときに雑談をする意味が理解できず、会話の輪に入らなかったがために、「人付き合いが悪い」と仲間はずれにされた経験のある人もいました。先日取材した人は、小学5年生のとき、休み時間に「いっしょにトイレに行こう」と言われて、「今はトイレに行きたいタイミングじゃない」と断ったら、いじめられるようになったと話していました。このように、学校生活のなかでうまくいかない経験をする当事者は多いのです。

働いてからわかることも

 さらに、発達障害の場合、仕事を始めてから自分自身の苦手なことに気づき、「発達障害だった」と認識する人も多いです。学生時代は、理解のある友だちがいて、なんとかやってこれた人でも、社会に出た途端に挫折してしまいがちです。たとえば、同期に比べて仕事を覚えるのが遅い、電話に出てもまともにメモが取れない、雑用すらできない……、そういった「できない」をくり返すことで、精神的につらくなって仕事をやめてしまう人も少なくありません。

 私も社会に出てから、生きづらさを強く感じた時期がありました。フリーランスのライターになる前、会社の経理部で事務職をしていたのですが、計算が苦手なのに、日常的に金庫の現金を数えたりエクセルで資料をつくったり、今思えば自分が不得意なことばかりしていたんです。ただ、当時は自分が事務職に向いていないことに気づいておらず、仕事ができないのは努力不足だと考えて、自分を追い込み続けていました。ふり返ってみると、事務職をしていた3年間、よく生きていたなあと思います。

 じつは、発達障害かそうでないかのちがいについては、あいまいな部分が多く、精神科や心療内科で診察を受けても、気づかれないことがよくあります。発達障害だと医師から正式に診断されてはいないけれど、定型発達とも言い切れない「発達障害のグレーゾーン」という層があることが、取材を通じてわかってきました。発達障害はグラデーション状の障害なので、「ここからが障害」というはっきりした線引きが難しいんですよね。

 グレーゾーンの人たちは、障害がないとみなされているため、障害者手帳を持っていません。抑うつ状態などなんらかの精神疾患と診断されれば、自立支援制度は受けられますが、税金の控除や減免は受けられず、障害者枠での雇用もしてもらえません。周囲の人から気づかれにくいため、トラブルが起きたときも「怠けているだけ」と思われてしまうこともあるのです。

 そうしたうまくいかないストレスによって、うつ病や双極性障害、適応障害などの「二次障害」を起こしてしまう人も少なくありません。発達障害の人は、小さいころから「ふつう」ならできることができない人も多く、自己肯定感が低くなりやすいですし、「また失敗するのではないか」と必要以上にプレッシャーを感じる人が多いんです。私が取材したなかでも、9割近い当事者がなんらかの二次障害を引き起こしていました。グレーゾーンの人も、おそらく同様に二次障害を抱えている人が多いと思います。

生きづらさ 解消するため

 こうした生きづらさを抱える発達障害グレーゾーンの人たち。その多くは、生きづらいなかでも自分なりの「ライフハック」、つまり「生き抜くための方法」を持ち、社会のなかをうまく泳いでいます。まずは、私自身のライフハックを一部ご紹介します。

 私はADHDで不注意傾向が強いため、うっかりミスが多く、仕事やプライベートの約束の時間をまちがってしまうことも多くあります。そうした事態を防ぐために、目に見える範囲にカレンダーを置いて、予定の「可視化」をしています。また、忘れ物を防ぐために、ホワイトボードに「財布」「PASMO」「携帯電話」など、必携の持ち物リストを書いて玄関に置いています。また、仕事が立て込んできて優先順位がわからなくなり、頭が混乱してしまうときは、抱えている案件を全部書き出してから優先順位をつけていきます。そして、終わったものから順番に消していくと、終わったものと終わっていないものと優先順位が「可視化」できるので、頭がスッキリするんですよね。

ライフハックを

 そのほかは「ツールに頼る」という声も取材をするなかでは多かったですね。遅刻を防ぐためにスマホのアラームを設定しておく、集中力を保つためにデジタル耳栓を使う、失くしたものをすぐに探せるようにGPS機器を利用するなど、うまくツールを使って乗り越えている人が多い印象です。

 一方で「人に頼る」という声も多く聞きました。

 発達障害の特性がある人たちは、仕事をするうえで、書類の記入漏れや業務連絡の聞き逃しなどのケアレスミスに悩む人が多く、トラブルを引き起こしてしまう可能性もあります。そうした場合には「自分はケアレスミスが多いので、ダブルチェックをお願いします」と前もって伝えておけば、波風が立ちにくいようです。さらに、耳からの情報に弱いタイプの人の場合は、「できるだけメールやチャットで連絡してください」と伝えておくことで、おたがいに不快な気持ちをせずに、仕事を進めることができるという話も聞いたことがあります。

 こうしたライフハックを実践することで、グレーゾーンの人たちは、生きづらさを解消できる場合が多くあります。そしてライフハックも、発達障害の程度や種類がグラデーション状に異なるように、それぞれに適したものはちがっています。そうした意味では生きていくなかで、それぞれが自分に合ったライフハックを見つけられるといいですよね。

 私自身が、小学生のころ「学校へ行きたくない」と感じていたように、発達障害やグレーゾーンであるがゆえに、不登校になる子どももいると思います。子どものときは発達障害の特性が「子どもらしさ」として見落とされがちで、大人になってから発達障害だとわかるケースも多いのです。もし「自分の子どもが発達障害かもしれない」思ったら、主治医や発達障害にくわしい医師に相談することをおすすめします。また、民間の発達障害専門で教育をしている機関に相談するのもひとつだと思います。

自分自身も

 私自身が、自分が小さいときに「親にしてほしかったことはなんだろう?」と考えてみると、療育施設(本人の特性にあわせた支援をおこなう施設)に行かせてほしかった、ということなんです。私の故郷は田舎なので、療育の施設自体がなかったのですが、もし小さいうちから通えていたら、少しは生きづらさが解消できたかもしれないと思います。また、私は二次障害によって双極性障害を患っていて、今も治療を続けていますが、二次障害が起きると本当にたいへんです。

 大切なのは、「子どものSOSを見逃さないこと」に尽きると思います。子どもがうまくできないことが多いと、つい気になって過干渉になりがちですよね。そうなると、子どもは自分自身で何も決められなくなってしまうし、弊害が大きい。だからこそ、子どもが「助けて」とSOSを出したときに手を差し伸べられることが重要だと思うんです。発達障害はグラデーションの障害なので、有る無しに関係なく、一人の人間として子どもに接することが大切だと感じます。発達障害やグレーゾーンの人は、もちろんできないことも多いですが、できることもたくさんあるので。「学校へ行きたくない」と言われたら、否定せずに、まずはその気持ちを受けとめてあげることが大切だと思います。(聞き手・石井志昂/編集・高村由佳)

* * *

自分のトリセツを持つことで

 これまで取材してきた不登校の子のなかには、発達障害ゆえに不登校になっている子もいました。本人が苦しんでいたのは「学校へ行けない」ことよりも周囲からの無理解でした。親からの理解がなく、自分に適さない環境を強いられている場合には、とりわけ苦しんでいました。
 発達障害の診断や教育相談と聞くと大げさに感じるかもしれません。しかし、診断結果は「本人のトリセツ」にもなります。どんな強みがあり、弱みを持っているのか。それを知ることは親にとっても子にとっても有意義なはずです。子どもが学校や集団生活で苦労している場合は、診断を検討してもいいのではと思っています。(編集長・石井志昂)

 

■姫野桂(ひめの・けい)
1987年生まれ。宮崎市出身。フリーライター。大学時代は出版社でアルバイトをし、編集業務を学ぶ。卒業後は一般企業に就職。25歳のときにライターに転身。現在は週刊誌やウェブなどで執筆中。専門は性、社会問題、生きづらさなど。おもな著書に『「生きづらさ」解消ライフハック』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『発達障害グレーゾーン』(扶桑社新書)などがある。


『「生きづらさ」解消ライフハック』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)


『「発達障害グレーゾーン』(扶桑社新書)

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