不登校新聞

552号 2021/4/15

【世界一受けたい授業出演特集】「生きててごめん」不登校の息子を追い詰めてしまった私の一言

2021年04月17日 20:46 by shiko
2021年04月17日 20:46 by shiko


後藤誠子さん

 4月17日(土)午後7時56分から日本テレビ系列で放送される「世界一受けたい授業」)の『無理やり「学校に行け」はもう古い!「不登校」という生き方』にて、後藤誠子さんが紹介されました。2021年1月31日、イベント中に開催された後藤誠子さんによる基調講演「なぜひきこもり当事者の親が幸せになれたのか」の抄録を再掲します(編集・本間友美)

* * *

 こんにちは、岩手県在住の後藤誠子です。私の息子は高校1年の夏から不登校・ひきこもりとなり、26歳の現在もその状態です。今日は私と息子の歩みから、何かひとつでもこれからを生きていくヒントを得ていただければ幸いです。

 息子は夏休み中に不登校になりました。進学校のため、休暇期間でも学校で講習会があったのですが、ある朝ベッドから出てこず、その日から登校をしぶるようになりました。私は子どもが不登校になったことを受けいれることができませんでした。数年後に聞いたのですが、中学のころから息子は「まわりと同じようにできない自分」に悩んでいたそうです。息子の苦しみを知ろうともせず、私は学校へ行かせることばかりを考えました。体を引きずることもしました。「レールから外れてほしくない」と必死だったのです。

 無理やり高校を卒業させたあとは、息子がみずから「ギターをつくる職人になりたい」と言ったことから、東京の専門学校へ進学させました。「一度はふつうから外れてしまったけれど、これでレールに戻れる」と私は安心しました。上京のためにとてもお金がかかることもわかっていましたが、「人なみに生きてくれるなら」と惜しみませんでした。しかし息子を送り出して1年も経たないうちに、私はまた驚かされることになります。2年に進級する前の2月、息子から電話がありました。

 苦しそうに絞り出すような声で、「12月から学校へ行っていない。もう二度と学校へは行けない」と息子は言ってきました。天国から地獄へ突き落されたようでした。何が起こったのかわからない。混乱しながらも私がとった行動はまたもや、「学校へ行くよう説得する」でした。「やっとレールに戻れたのに」で頭がいっぱいの私は、「お金をあげるから、お願いだから学校へ行ってくれ」と、いきすぎた発言もしてしまいました。その瞬間、電話は切れました。5日間音信不通になりました。「死んでしまっていたらどうしよう」。何度も不安がよぎりました。あまりにも追い詰められ、私はヘンな行動を取ってしまいます。LINEの音声メッセージでヘタな歌を送ったのです。すると真夜中に息子から「何?」と返事がきました。

 とにかく息子が反応をくれたことに安堵し、今度は東京へ飛んでいきました。じかに会って「ひとりでたいへんだったね」と声をかけると、息子は大粒の涙を流しました。そして「死ねなくてごめん。俺なんかが生きててごめん」と言ったのです。「子どもにこんなことを言わせてしまう私は最低な母親だ」と思いました。ここでようやく私は苦しんでいる息子に目を向けるようになりました。

状況打開のため動いたけれど

 しばらくして息子が実家に帰ってくると、状況を打開するために私たちはとにかくアクティブに動きます。いっしょに旅行したり、ボランティアに参加したりしました。しかし息子は私に合わせていただけで、しだいに元気がなくなっていきました。無表情になってしまった息子を見て私は、「もう自分たちだけで解決できる問題じゃないかもしれない」と思うようになりました。そこで親の会や心療内科の家族相談会に参加しはじめ、本を読んだり、講演会へ行ったりするようになりました。いろいろな体験を見聞きし、私は心の支えにしたい言葉にいくつか出会いました。しかしなかにはまったく腑に落ちない言葉もあったのです。『不登校新聞』の樹木希林さんのインタビュー記事(400号)を読んだときのことでした。2点だけ納得がいきませんでした。

 1つは、不登校のことを夫・内田裕也さんになぞらえて語られたことです。

 樹木さんは「夫はありがたい存在だ」と言っていました。「有難い」は「難が有る」と書くことから、夫は難の人であり、だから樹木さんは成熟することができたという趣旨の内容でした。私は、「子どものことでたいへんかもしれないけれど、その子どもは親を成熟させてくれる、ありがたい存在なんだよ」と言われているように感じ、腹が立ちました。「毎日、子どものために、こんなにたいへんな思いをしているのに、子どもが親を成熟させてくれるわけがない」と思ったのです。

 もう1つは、親は不登校の子にどう向き合えばよいのかとの質問に、「自分だけが助かる位置にいちゃダメだ。自分も降りていかないと」と答えられたことです。子どもと同じ景色を見るということだと思います。ふたたび反感を覚えました。「いやいや、私たち親は見ている!」と。子どもと同じ視点に立てていない悪い母親だと責められているような気がしたのです。ところが息子の言動をきっかけに、樹木さんの語ったことが理解できるようになりました。

 あるとき息子は拳を握りしめて怒りをあらわにしていました。理由を聞くと、知人に近況を聞かれた息子は、「今は何もしていない。母親に養ってもらっている」とありのまま答えたそうです。すると「うらやましい。俺もそんな身分になってみたいもんだ」と返され、「殴ってやりたいほど頭にきた」と言うのです。


後藤誠子さん

何もしないこと その苦しさを

 私はピンときませんでした。「働かないで親のお金で好きにすごせていたら、そりゃ、うらやましいでしょ」と思ったのです。しかし次の言葉ではっとしました。息子はこう言い返したかったと言います。「うらやましいと思うんだったら、お前がやってみろよ。何もしないでずっと家にいてみろよ。どんなにつらいか。やれるもんならやってみたらいいだろ!」。

 息子の苦しみの深さを思い知らされました。じつはそれまで息子のことを「楽をしている」と見ていたのです。ちがうと気づいた私は、息子と同じ景色を見ようと試みました。何もしないで家にいたらどんな気持ちになるのか、想像してみました。でも、わかりませんでした。どんなに考えても息子のつらさがわからない。しかしその「わからない」を受けいれたとき、自分を覆っていたモヤモヤが晴れていきました。

 私は息子をちゃんと見ていると思っていましたが、見ていたのは自分と、自分のなかの息子でした。思えば息子が専門学校へ進学する際、たくさんお金をかけましたが、息子のためではなく、自分が助かりたくてやったことでした。「うちの子、不登校だったけど、今はギターをつくる学校へ通っているの」とほかのお母さんたちに言いたかったのです。

 息子が「わからない」ということは、私と息子はちがう人間だ、ということです。私が産んで育てた子ですが、彼はまったく別の人格を持った人間でした。さんざん悩んできましたが、「自分とはちがう」を受けいれたことで、息子を自分から切り離して対等にあつかい尊重すべきだということに、私はやっと気づきました。息子とは考えがちがって当然。押しつけることは意味がない。「息子のことは息子自身にまかせて大丈夫」と思えるようになったのです。

 さらに私は「今」だけを見て生きていけるようになりました。以前は、「私がこう言っていれば、息子はひきこもりにならなかったんじゃないか」と過去にとらわれ、「私が死んだら息子はどうなるのか」と未来への不安を抱いていました。今は過去と未来すら切り離しています。かつて息子を殺して自分も死のうと思いつめたこともありました。今は、息子の人生は息子自身が歩んでいってくれたらよいと考えています。そう思えるまでに、息子は私を成熟させてくれました。

「そのままでいい」と思えると楽に

 私は現在、息子との関係で気づけた「自分と切り離して相手を尊重する」を活かし、岩手県北上市で「ワラタネスクエア」という居場所づくりをしています。どんな人にも「あなたはあなたのままでいい」ことを伝えています。みなさん、自分もほかの人も「そのままでいいんだ」と思えると、表情が明るくなっていきます。そのようすを見ていると幸せです。日々を楽しく生きられるようになり、息子には心から感謝しています。息子もスタッフとして「ワラタネ」を手伝ってくれています。はたからはもうひきこもりに見えないかもしれません。しかし息子は今も自分を「ひきこもり」と言います。息子にはまだ壁があるのでしょう。私はこれからも「そのままでいいよ」と息子を見守っていきます。

 

■後藤誠子(ごとう・せいこ)
 岩手県在住。次男の不登校・ひきこもりを経験したことから、当事者を地域で支え合う「笑いのたねプロジェクト」を立ち上げる。おもな活動に岩手県北上市での居場所事業「ワラタネスクエア」、講演活動、ラジオパーソナリティ、ブログ、youtube配信、個別相談などがある。

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