不登校新聞

570号 2022/1/15

人と比べられる世の中。子どもたちに必要なのは「人と比べない自信」

2022年01月14日 19:05 by kito-shin

 「どうしても自信が持てない」。7年間のひきこもり経験があり、現在も生きづらさをかかえる瀧本裕喜さんは悩んでいました。そんな瀧本さんの目に留まったのは植松電機社長・植松努さん。植松さんは幼いころから宇宙にあこがれ、現在はロケット開発などに携わっている。また学校での「ロケット教室」や講演活動によって、子どもたちに自信をつけてもらうための活動をしているとのこと。「この人にならば自信を持つ秘訣が聞ける」と考え、お話をうかがいました(※写真は植松努さん)。

* * *

――植松さんは子どものころ、「飛行機やロケットに関わる仕事がしたい」と思ったところ、まわりの大人から「お前なんかにムリだ。できるわけない」とたくさん言われたとのことです。そんななかで、なぜチャレンジを続けることができたのですか?

 それ、前に小学生にも質問されました。「どうしてだろう?」と自分でも思いました。よくよくふり返ってみると、僕には相談できる人がいたんですね。僕の相談相手は、伝記に書かれている人でした。実在の大人は、「できない理由」しか教えてくれなかった。「すごく頭がよくないとムリだ」、「お金もすごくかかるぞ」と。しかも、こんなふうに否定してくる大人は、全員、飛行機やロケットをつくったことがない人たちでした。ところが、伝記を読めば、ライト兄弟など、実際につくった人が「こうやったらできるよ」と教えてくれます。何もやっていない大人ではなく、実際にやっている伝記のほうが真実だと思いました。僕は伝記の人たちに励まされて、生きてきたんです。でも最近の中学生、高校生の相談を受けていると、彼らはまわりの大人の言うことを信じすぎているように思います。もっといろんなものを読んだり、見たりすればいいのに。みんなまじめなのか、見ている世界が狭いんじゃないかなという気がするんです。

黒歴史こそ大事

 中学生のころって、からだと心が一気に成長して、ホルモンも出てきて、ぐちゃぐちゃになりますよね。そして詩を書いてみたり、マンガを描いてみたり、小説を書いてみたり、歌をつくってみたり、そういうことをやらかすようになる。たいていは「黒歴史」ですけれどね(笑)。でも、こういう黒歴史を経験しておかないと、まずいんじゃないかと思うんです。頭のなかをぐちゃぐちゃにしながら成長する時期が中学生だとしたら、その時期にまじめに勉強と塾通いばかりでよいのかな、と。

 もちろん子どもたちが悪いんじゃないですよ。大人たちの問題です。大人たちがつくりあげた今の学校教育制度では、素直でまじめで勤勉な人を育成しようとしていますね。でもそれは、ロボットに100%負ける人です。

――ロボットに負けちゃいますか?

 だって、ロボットのほうがはるかに素直で勤勉ですから。人間の資質として、素直さやまじめさ、勤勉さはとてもよい資質ですけれども、それだけじゃダメだと思います。もっと大事な資質は、おそらく「優しさ」だと僕は思うんです。なぜかというと、優しい心がないと、問題を問題として見つめることができなくなるからです。身のまわりに困っている人や苦しんでいる人がいるときに、なんとも思わないことができてしまう。僕は、この世のすべての仕事というのは、本来は困ったこと、悲しいこと、苦しいことの解決であってほしいと思っています。でも優しさがないと、この3つを見落とすことになります。今、日本は、優しい人を増やす必要があると、すごく思っているんです。

――不登校・ひきこもりの人が「自分なんかダメだ」、「どうせムリだ」と思ったとき、どうすれば失った自信を取り戻していけると思いますか?

 私のまわりにも、たくさん勉強して、よい大学へ行って、よい会社に入って、でも、そこで挫折した人がたくさんいます。パワハラだとか、いろんなことがあって、会社を辞めてしまう。そうした人たちが、ひきこもりになることもありますよね。そして社会復帰するために作業所という、国の助成を受けた施設で働く。

社会復帰の場、整備されずに

 でも作業所はごくかんたんな単純作業が多いので、うまくなじめない人も多いです。ようするに、一度ドロップアウトしてしまった人が、社会復帰するためのルートが整備されていないんです。だから僕は、自信を失った人たちに小さなロケットのつくり方を覚えてもらいました。そのロケットを持って、近くの小学校へロケットのつくり方を教えに行ってもらうんです。

 会社とかで、さんざんやっつけられて、「自分なんかダメだ」と思っている人たちが、子どもたちをサポートするわけです。子どものつくったロケットが飛んで行って、子どもの喜ぶ顔を見ると、なんだかサポートしている人の自信が増えていくんですよ。自分が役に立った、誰かを助けることができた経験は、人を元気にするんだなと気づいたんです。だから僕はロケット教室をあちこちでトライしています。

――すごいですね。それは植松さんが思い付いて、やられているんですか?

 そうです。一番最初にロケットを使った授業をさせてほしいとお願いしたのは、娘のクラスでした。うちの娘のクラスは、16人しかいなかったんですが、そこで学級崩壊が起きていました。先週いじめをしていた人が、今週はいじめられるみたいな感じで、全員ローテーションでいじめられていたんです。しかも、すごく陰湿なんですよ。「なんでこんなことになるのだろう。ひょっとしたら、この子たちは自信がないのかな」と思ったんです。この子たちの自信を増やすにはどうしたらよいか考えました。そして、「できるわけないと思うようなことが、できるようになったら、自信が増えるかな」と思って、ロケットを持って教室へ行きたいと言ったんです。そしたら、娘の担任の先生に怒られました。「このクラスの子どもたちは、みんな能力が低いんです。ロケットなんか、つくれるわけがないんです」と言われました。いや、うちの娘、そこにいるんだけどね(笑)。

 実際にロケットの授業ができることになって、教室へ行ってみると、その先生がすべて仕切るんですよ。「はい、この表を見なさい。部品番号を調べなさい。勝手なことをするんじゃない。まだ袋を開けるんじゃない」とか言っている。僕は「先生、それはやめてください」とお願いしました。それから子どもたちに言いました。「みんな好きにつくっていいから。わかんなかったら、わかってそうな人に聞けばいいから。わかったら、わかってなさそうな人に教えればいい。たったそれだけです。予備部品を山ほど持ってきたから、好きにつくっていいよ」と。そうしたら、みんなどんどん勝手につくっていくんですね。

 つくり終わったロケットを飛ばすときには、みんな「自分から飛ばしたい」と我先に並ぶんです。「風向きを見るために、ためしに1本飛ばしてみるね」と言って、1本、私が打ち上げます。時速200キロを超えるロケットがバーっと100メートル上空まで一気に上がって、それからパラシュートを開いてゆっくり降りてきます。それを見て、みんなの顔がまた曇っちゃうんですね。「あんな飛ぶとは思わなかった」と。そして「自分のはダメだ、絶対飛ばない」と言うんです。列も逆になってしまう。「君からどうぞ」と譲り合うんです。

 でもね、飛ぶんです。飛ぶように、ちゃんと僕らが見ていますから。飛んだら、子どもの表情は変わりますね。そして、そのあと学級崩壊がおさまっちゃったんですよ。みんな仲よくなることができました。


植松努さん

比べて得る自信、絶対苦しいです

 結局、娘のクラスは、担任の先生ががんばりすぎたせいで、子どもたちが自分で考えるという主体性を、まるで失ってしまっていたのですね。おそらくそれが原因で、自分より弱い人をつくることで自分の自信を保つという、いじめの連鎖が起きたんだと思うんです。

 学校でも社会でも、今、すごく問題になっているのは、「比べる自信」だと思います。小さいときからお兄ちゃん・お姉ちゃんと比べられたり、ほかの子どもと比べられたり、ずっとしてきたわけじゃないですか。だからつねに他人に対する劣等感か優等感で自分の気持ちを維持している。それは絶対苦しいですよね。

 けれども、「できなかったことができた」という経験は、「比べなくてよい自信」になるんですよ。「あんなに高くロケットを飛ばすなんて私にはムリ」と思っていたことが、ちゃんとできた。そうした体験だけが、きっと「比べない自信」を生むんです。

――最後に、おすすめの伝記はありますか?

 伝記は、すごくよいですよ。人生にとって、もっとも必要なのは、自分がやりたいことをやったことがある人たちなんです。その人たちに出会う努力をすると、自分のやりたいことに近づけますよ。そういった意味では、伝記だけじゃなく、生きている人で、自分のやりたいことを現在やっている人に会ってみるのも、すごくよいですね。お手紙を書いてみるところから始めてみたらどうでしょうか。

 また、伝記にも種類があります。小学生向け、中学生向け、大人向けと、年代別に分かれているんです。子ども向けは、美談が多く書いてある。でも対象年齢が上がっていくと、ときにはドス黒い話も出てくるんですね。そこがすごくおもしろい。たとえばライト兄弟は特許紛争で、いろいろ大失敗してしまうんですけれども、そのようすは、自分が会社を起こして、特許を取るときにすごく役に立ちました。反面教師としてね。

 また、伝記にかぎらず、自分があこがれている人の生きざまを知ることって大事ですよ。人間はピンチになったとき、どうしていいのか、わからなくなる。そういうとき、誰かのマネをすると、乗りきれることがあります。「こういう生き方、かっこいいな」と思っている人の名台詞をつぶやくだけで、魂が強くなって、動けたりします。

 僕が苦しいときにお世話になったのは、キャプテンハーロック、沖田艦長、ケンシロウ、ラオウなど、すべてマンガの登場人物でした(笑)。マンガのキャラクターの名言は、すばらしいパワーがありますよね。ぜひマンガ・アニメを見て、かっこいい名台詞を覚えておいてください。いつか、あなたの背中を押してくれると思いますよ。

――ありがとうございました。(聞き手・子ども若者編集部、編集・茂手木涼岳、協力・瀧本裕喜)

【プロフィール】植松努(うえまつ・つとむ)
株式会社植松電機代表取締役。全国各地での講演やモデルロケット教室を通じて、人の可能性をうばう言葉である「どうせ無理」をなくし、夢をあきらめないことの大切さを伝える活動を続けている。著書に『「どうせ無理」と思っている君へ 本当の自信の増やしかた』(PHP研究所・2017年)、『不安な時代に踏み出すための「だったらこうしてみたら?」』(PHP研究所・2021年)などがある。

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