不登校新聞

572号 2022/2/15

不登校は、ときに必要です。精神科医が語る子どもの今

2022年02月15日 17:33 by kito-shin

 不登校でも本当に大丈夫なの?不登校の子どもを持つ親であれば、誰しもが抱える悩みの根本について、精神科医・松本俊彦さんは「不登校は子どもたちが生き延びるための戦略であると捉えることが重要」と指摘します。松本俊彦さんが語る「不登校の意味と必要性」について、松本俊彦さん自身の研究調査を踏まえて解説するとともに、「まずは親が大丈夫」と思えるようになるためのコツについても紹介します(※写真は松本俊彦さん)。

* * *

 本日は「不登校でも本当に大丈夫なの?」というテーマについてお話するわけですが、私は「不登校でも大丈夫」という前に「不登校はときに必要である」と考えています。その点について、いくつかのデータを示しながらお話したいと思います。


【スライド1】

 まずは、スライド1を見ていただければと思います。

 これは2016年から2020年までの児童生徒の自殺者数を示した折れ線グラフです。上から総数、高校生、中学生、小学生の順です。みなさんご承知の通り、わが国の自殺者数は1998年に年間3万人を越え、10年以上に渡ってそれを下まわらない状況が続きました。2012年に3万人を切ってからは減少傾向にありますが、それはあくまでトータルの話です。折れ線グラフを見ていただくとわかる通り、子どもの自殺はじわじわ増え続けています。しかもコロナ禍以降、急激に増えています。とくに2020年、高校生の女子生徒の増え方は前年比の2倍です。

 そうしたなかで、週刊誌でも特集が組まれるなど、社会問題となっているのが「トー横キッズ」です。コロナ禍でステイホームが叫ばれるなか、以前から家族関係が悪かった子どもたちが居場所を失い、新宿・歌舞伎町の新宿東宝ビル近辺に集まっているんです。子どもたちはそこでリストカットをしたり、市販薬を乱用したりしています。なかには、死にたいと思う者どうしで意気投合し、集団自殺をする事件も起きており、安心してすごせる居場所がない子どもたちの存在が大きな問題になっています。

10代の薬物依存、市販薬が約6割

 つぎに、私の専門が薬物依存症ですので、さきほどお話した市販薬の乱用をめぐる子どもたちの現状についてお話したいと思います。私は2年に1回、全国の精神科で治療を受けている患者さんの資料をすべて収集して研究する取り組みを続けています。そのなかで10代の患者さんのみに絞り、どんな薬物を乱用しているのか。年代別・種類別に分類したものがスライド2です。


【スライド2】

 2014年のデータを見ると、もっとも多いのは脱法ハーブなど、いわゆる「危険ドラッグ」(48%)であり、全体のおよそ半分を占めています。その後、危険ドラッグに対する規制が強化されて入手しづらくなるにつれ、2016年には16・7%までに減少し、2018年には0%になりました。

 他方、2016年から増えているのが「市販薬」(25%)です。2018年には41・2%、2020年には56・4%と急激に増加していることがわかります。ここでいう「市販薬」とは、ドラッグストアで誰もがかんたんに入手できるもの。たとえば「エスエスブロン錠」「パブロン」「ルル」といった、みなさんも1度は服用したことがあるであろう咳止め薬や風邪薬です。

 変わってきたのは薬物の中身だけではありません。薬物を乱用する子どもたちの背景も変わってきています。2014年と2018年を比べてみます。2014年に危険ドラッグを乱用していた子どもたちを見ると、高校を卒業した者は1割にも満たず、大半が高校を中退しているか、あるいはそもそも高校に通っていません。非行歴がある子どもも半数に達することから「危険ドラッグイコール非行問題のひとつ」と捉えることができました。

 かたや、2018年に市販薬を乱用していた子どもたちを見ると、半数が高校に在籍中か、高校を卒業しています。非行歴もまったくと言ってよいほどありません。つまり、はた目には、まじめな子・よい子・学校になじめている子のように見えるわけです。

 ただし、実際はそうではありません。彼らのなかには、適応障害やトラウマなどのメンタルヘルスに関係する問題を抱えていたり、「自閉スペクトラム症(ASD)」などの発達障害に起因する生きづらさを抱えていることがわかっています。つまり、市販薬を乱用している10代の子どもたちは、がんばって学校に通い、しんどい状況にも過剰に適応しようと無理を重ねている子どもたちである可能性が高いのではないか、と私は考えています。

 しかし、その行動には大きな心の痛みを伴います。それをすこしでもやわらげるために市販薬を大量に服用しており、結果として薬物依存症になっているのではないか、と私は見ています。これが薬物医療の臨床現場で私たち医師が出会っている10代の子どもたちの現実です。「市販薬の乱用なんてもってのほか」と、大人が頭ごなしに叱責することで解決するような問題ではないとつくづく感じています。

若者の自殺、75%が学校復帰

 最後にスライド3をご覧ください。私は自殺に関する研究もしており、自殺で亡くなられた方のご遺族に、ご本人の半生について、ていねいに時間をかけて聞いていくという取り組みの一部を紹介したものです。そこで明らかになったのは、10代や20代で亡くなられた方の多くが不登校を経験していたということ。これはある程度予想していたことではありましたが、私が驚いたのは別の事実です。じつは、そのうちの75%の方が学校復帰をしていました。一時的に不登校になったものの、わりと速やかに学校復帰していたんですね。

 私が臨床現場で接する子どもたちの多くは、不登校が長期化しています。なかには、学校復帰しないまま中学を卒業したり、高校生であれば退学する子もいます。10代や20代で自殺された方の多くが学校に復帰していたという事実には、正直驚かされました。

 誤解しないでいただきたいのは、不登校の子どもたちを無理に学校へ行かせよう・戻そうとすると、薬物依存症になる、自殺するということを言いたいわけではありません。私がお伝えしたいことは冒頭でもお話した通り、「不登校はときに必要である」ということです。

 不登校の子どもたちへの支援というと、大人はつい「学校へ戻ることがゴールである」と考えてしまいがちですが、それはあやまりです。子どもの立場に立って考えるならば、不登校は子どもたちが生き延びるための戦略である。そのように捉えることが重要だと考えています。

 本日お話してきた通り、自分の居場所がなく、自分と似た生きづらさを抱えている者どうしのつながりをほっしている子どもたち。学校に過剰適応しようと無理を重ねるなかで市販薬を乱用して薬物依存症になっている子どもたち。そういう子どもたちがすくなからずいる、これが子どもたちを取り巻く現状だと思います。もし子どもたちが「学校へ行きたくない」と言うならば、そこには重要な意味があり、それが必要となるときがあるということを多くの大人に理解していただきたいと思います。

 最後に、「大丈夫」ということについて、すこしお話したいと思います。親が大丈夫というサインを出すことは、子どもの安心につながる大切なことです。なぜなら、親が大丈夫と思っていないときのオーラというものは、子どもにビンビン伝わっていますし、それによって子どもはさらに追いつめられてしまうことがあるからです。ですから、まずは親自身が大丈夫と思えるようになることがとても重要です。ただ、根拠なしに大丈夫なんて思えませんし、わが子のこととなると、やっぱり難しいですよね。

 では、どうすればよいかと言うと、不登校経験者やかつて不登校の子どもの親だった方の話を聞く、これが大事だと思います。「不登校その後にもいろいろある」という話を聞くことで、親も安心できます。そして、その安心が子どもに伝わることで、よい循環につながっていきます。不登校経験者と出会って話を聞いたり、不登校の親の会などに参加してさまざまな方の話を聞くことをおすすめします。

 親御さんのなかには、わが子をどこかに通わせようとしたり、なんとかして他者との出会いをつくろうとされる方もいますが、親から一方的に促されて見つけた居場所や人間関係ほど意味のないものはありません。まずは、親がいろんな人たちと出会い、たくさんの話を聞いてほしい、私はそう思います。よい循環がめぐっていけば、子どもたちはエネルギーを温存します。そして、風向きが変わったと本人が認識したところで、本人らしくエネルギーを発揮できるようになる。そのタイミングが来るまで、親は本人を信じて、待ってあげてほしいと思います。

 私の経験から言えることは、学校へ行かないことにも大事な意味があり、必要な時があるんだということ。そのことを多くの方に知ってほしいと思い、いくつかのデータを示しながらお話しました。ありがとうございました。(了/編集・小熊広宣)

松本俊彦さんの書籍紹介


『誰がために医師はいる クスリとヒトの現代論』
発売日:2021年4月1日
出版社:みすず書房
価 格:2860円(税込)
単行本:232ページ
(TEL:03-3815-9181)


『世界一やさしい依存症入門 やめられないのは誰かのせい? (14歳の世渡り術) 』
発売日:2021年8月25日
出版社:河出書房新社
価 格:1562円(税込)
単行本:234ページ
(TEL:03-3478-3251)


【プロフィール】松本俊彦(まつもと・としひこ)

1967年生まれ。国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長、自殺予防総合対策センター副センター長。おもな著書に『薬物依存の理解と援助』(金剛出版)、『自傷行為の理解と援助』(日本評論社)、『「助けて」が言えない SOSを出さない人に支援者は何ができるか』(日本評論社)など多数。

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