不登校新聞

576号 2022/4/15

お父さんだからこそ、できることがあるんです。わが子の不登校と向き合うためのヒント

2022年04月11日 15:23 by kito-shin
2022年04月11日 15:23 by kito-shin

 子育ての話題では、お父さんがどうしても置いてきぼりになりがちです。不登校への理解は、お母さんよりもお父さんのほうが苦労しやすいとも言われており、夫婦ですれちがいが起きることもしばしば。でも、本当はお父さんだからこそ、できることだってあるんです。今回は講演会「不登校対応の大原則~不登校とお父さん~」(主催・ひきこもり発信プロジェクト)の抄録を掲載します。講師は蓑田雅之さん。蓑田さんは昨年、お父さん向けに『「とりあえずビール。」で、不登校を解決する』を出版。講演では、不登校に関する2つの問題を切り口に、お父さんにできる取り組みのヒントについてお話されました(※写真は蓑田雅之さん)。

* * *

 蓑田雅之と申します。これまで私は不登校とは無縁の生活を送ってきましたが、わが子が自由な校風の「東京サドベリースクール」に通い始めたことをきっかけに、保護者の立場から教育や学校、そして不登校について考えるようになりました。現在は不登校で悩む親子を一人でも多くなくしたいという思いから、「おはなしワクチン」という親向けの講演活動を行なっています。

 「おはなしワクチン」の活動をするなかで、気づいたことがあります。参加者のなかにお父さんがいないのです。たとえ土日に開催したとしても、お父さんはほとんど来ません。ごくまれに1、2人来てくれたらよいほうです。

 なぜお父さんは参加しないのか疑問がわくとともに、率直にもったいないなと思いました。それ以来、お父さんにも不登校を考えてもらいたいという思いが日に日に強くなり、その結果『「とりあえずビール。」で、不登校を解決する』を出版するに至ったのです。今回は本書の内容をベースに私の考えをお伝えするとともに、お父さんがどのように不登校と向き合えばよいのか、そのヒントを提示できればと思います。

不登校からの二次災害とは

 さて、そもそも不登校とはなんでしょうか。ずばり不登校は「子どもが学校へ行っていない」という事実、それだけのことなのです。しかし「学校へ行っていない」という事実をマイナスとして捉えるがゆえに、「不登校の二次災害」に苦しむ家庭が多いんですね。

 「不登校の二次災害」として考えられる問題は2つあります。1つ目は「家庭不和」、2つ目は「子どもの自己肯定感の低下」です。そして、この2つの問題には、じつはお父さんの存在が深く関わっています。順を追って説明していきましょう。

 まず、1つ目の問題は「家庭不和」です。一般的な家庭では、お母さんが子育てをメインで行ない、お父さんは離れたところから第三者的な立場で冷静に見る、というような役割分担が多いのではないでしょうか。このような役割分担で考えた場合、お父さんのポジションでは感情に左右されずに冷静に考えられるという意味で、よい面もあります。ところが不登校の問題となると、どうしても無責任な立場に陥ってしまいがちです。なぜならお父さんは子どもとすごす時間が短いゆえに、不登校の背景や経過が見えていないからです。そうすると「学校へ行かない・行けない」という結果だけで考えてしまい、「それなら学校へ戻せばよい」と解決を急ぎがちになります。一方でお母さんは子どもとすごす時間が多い分、子どものようすを把握しやすいため、最終的には「学校へ行かなくてもよい」と寄り添うことが多いんですね。

 ここに、夫婦が対立するきっかけが生まれます。意見が分かれること自体は悪いことではありませんが、不登校の場合は感情的な対立へと発展してしまうことのほうが多いです。その結果「自分のせいで家庭不和が起きている」と子どもは自分のことを責め、さらに回復を難しくするという悪循環を生んでしまいます。

情報を集めて専門家になって

 こうした事態を防ぐためにはどうすればよいか。ここがお父さんの役割の活かしどころです。ぜひともお父さんにはこれまでの第三者的な立場を活かしつつ、仕事と同じように論理的な視点で考えて行動してほしいのです。たとえば、みなさんは職場でコピー機が動かなくなったとしたらどうしますか。コピー機に向かって「なんで動かないんだ」「動け」「負けるな」となだめすかしたり、叩いたりしませんよね。なぜコピー機が動かないのか、情報を集めて原因を探るはずです。じつは不登校も同じで、原因を考えずに無理やり学校へ戻そうとするのは、コピー機を叩くことと同じで親子関係や夫婦関係が壊れてしまうわけです。

 ですから「学校へ戻るのはあたりまえだろう」と考える前に、情報を集めることがとても大切なんです。「不登校の人数はどれくらいなんだろう」「義務教育の義務ってなんだろう」「学校以外の学び場はあるのかな」と、仕事での取り組み方を不登校にも応用して、お父さんたちには「不登校の専門家」になってほしい。そのためにも、不登校に関する本を読んだり、不登校の親の会に参加したり、専門家のオンラインセミナーに参加したりして、ぜひ情報を仕入れてほしいんです。

 戦う相手はあなたの子どもでもなく、あなたのパートナーでもありません。家族みんなで力をあわせて不登校に取り組んでいただけたら、事態は深刻にならずにすみます。ですから家庭不和を防ぐことは、父親ができることの1つなのです。

 2つ目は、「子どもの自己肯定感の低下」です。自己肯定感とは「自分が自分であってよい感覚」だと、私は解釈しています。幼いころに遊んだ楽しい思い出や日常のなんでもない経験や、親から愛されているという感覚が、自己肯定感を育み、自分を根底から守ってくれるバリアになるんです。

 ところが不登校になる子たちは、それまでの過程ですでに心に傷を負っていて、バリアがなくなってしまっている状態です。この状態のまま自己肯定感が失われていくような対応を取ると、「自分はダメな子なんだ」と自己否定に陥ります。自己否定に陥るとどうなるか、最悪な事態も想定しておかなければなりません。


蓑田雅之さん

子どもの命

 不登校においての最悪な事態とは「子どもの自殺」です。残念ながら、世界的に見ても日本は先進国のなかで子どもの自殺率がもっとも高い国です。そして自殺の原因の1位は「学校問題」、第2位は「親から叱責を受けた場合」。まさに不登校の子どもが置かれている状態です。ですから、このような場合もお父さんには、仕事同様の危機管理意識を持って対応してほしい、と私は考えます。

 では、不登校の子の自己肯定感を下げないためには、どうしたらよいでしょうか。それはやっぱり「学校復帰を迫らないこと」が何よりの大前提なんですね。子どもだって、できることなら学校へ行きたいと思っているはずです。しかし、行きたくても行けないから不登校という状態になっているわけで、その狭間で子どもは苦しんでいるわけです。心のケガは、からだのケガとちがって目には見えません。それにも関わらず無理強いするような働きかけは、傷口に塩を塗っているようなものです。それでは「あなたは学校へ行けないダメな人間だ」と子どもの存在を否定することになってしまいます。最悪な事態まで追い詰める可能性があることを、どうか忘れないようにしてください。

将来と今 切り離して

 ここまで「不登校の二次災害」である2つの問題に焦点をあてて、不登校との向き合い方についてお話しましたが、いかがでしたでしょうか。そうは言っても子どもが不登校になると、心配の種は尽きないですから心を切り替えるには時間がかかります。「学歴がなければどうするのだろう」「経済的に自立できるのか」「組織のなかでやっていけるのか」。わが子のことを思うほど、たくさんの心配事が出てきますよね。それはけっして悪いことではありません。

 でも、よく考えてみてください。今挙げたものは、ぜんぶ「将来」の心配事で、じつは「今」の心配事ではないんです。ですから、まずは「将来」と「今」を切り分けたうえで、今やるべきことを考える必要があります。

 今やるべきことはシンプルです。学校へ行かない状態を認めたうえで、お家で安心してすごせる状態をつくること。これに尽きます。子どもの今を認めてあげれば、子どもの自己肯定感は高まるからです。自己肯定感は人の土台となる大切なものです。土台がないと家は建ちませんよね。人間としての土台を取り戻せれば、柱や屋根や壁といった土台のうえにある建物のこと、つまり「将来」を考えられるようになります。だからどうぞ安心して「今」に向き合ってください。

 それでもわが子を目の前にするといろんな心配がわき出てくるし、いざというときにどのように構えていればよいのかわからない、と思われる方も多いかもしれませんね。

 そこで僕が提案したいのは、お父さんには子どもの不登校を肯定的に受けとめる1歩として、「今日は日曜日」と考えてみることです。日曜は子どもが家に居るのはあたりまえでしょう? お父さんだって、休日は気楽な気持ちですごしますよね。その感覚をつねに持ってほしいんです。子どもが不登校になって家にいることを受けとめるときには「今日は日曜日」と思えば、お父さん自身がイライラしたり腹が立ったりすることがなくなると思います。じつはこの姿勢が子どもにとって安心感を持たせ、自己肯定感を育むことにつながるんです。

とりあえず

 こんなことでよいの? と疑われる方もいるでしょう。これはたとえ話ですが、居酒屋に入ったら、たくさんメニューがあって、どれを食べるか悩みませんか。そんなとき、たいていはとりあえずビールを頼んでから、じっくりメニューを選ぶことが多いと思うんです。じつは不登校も同じで「とりあえず」でよいのです。とりあえず不登校を認めて、今はまだよくわからない将来のことは別に考えましょう、ということを今回提案したかったんです。

 親は子どもを導いていくために自分が指導しなければ、とついつい考えてしまいがちです。とくにお父さんはその傾向が強いかもしれません。でも、親が立派である必要はないし、むしろ弱さも見せていきながら、気楽に構えていけばよいんです。むしろそのほうが親子それぞれ対等な関係を築くことができますし、結果として子どもの自立にもつながります。そのように前向きに考えていけば、きっと実りはあります。

 このように考えるとお父さんにできることってたくさんあるように感じませんか。わが子が自分の人生をみずからプレーヤーとなって歩めるように、お父さんにはご自身の役割を把握したうえで、ぜひとも客席にいる応援団になってほしいと思います。(了/編集・赤沼美里、木原ゆい)

書籍紹介

『「とりあえずビール。」で、不登校を解決する』
著:蓑田雅之 1430円(税込)びーんずネット

【プロフィール】蓑田雅之(みのだ・まさゆき)
フリーランスのコピーライター。子どもが東京サドベリースクールへ通い始めたことをきっかけに、従来の学校教育のあり方に疑問を持ち、教育分野の研究に着手。現在は不登校で悩む人をなくすことを目的に、講演会「おはなしワクチン」や書籍出版などの活動を行なっている。

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