不登校新聞

598号 2023/3/15

子どもが1歩踏み出すために 不登校経験者と専門家の指摘から考える「親にできること」【全文公開】

2023年03月09日 11:26 by koguma
2023年03月09日 11:26 by koguma

 「うちの子はいつ動き出すのか」。不登校の子を持つ親のなかには、そんな悩みを抱えている方もすくなくありません。ましてや、4月は進学や進級をめぐり、社会全体が動き出す時期。親戚やご近所づきあいのなかで「〇〇さんが高校生になった」「〇〇さんが就職を機に一人暮らしを始めた」なんて話を耳にすると、親の気持ちはどうしたってザワついてしまいます。

 では、不登校経験者は、不登校からの1歩をどのように踏み出したのか。その際に、何が必要で、どのようなきっかけがあったのか。3人の不登校経験者の語りから見えた実例とともに、心理カウンセラーの指摘をふまえ、不登校の子どもが1歩を踏み出すために「親にできること」について考えます(※画像はイメージです)。

* * *

 高校生で不登校になったAさん。20代でひきこもり、家からほぼ出ない生活を2年ほどすごしました。Aさんは「1歩前に出ようと思えるためには、心のエネルギーが必要だった」と語ります。そのエネルギーは好きなことをすることで1滴ずつたまる水のようなもので、せっかくたまっても、親の一言で一気になくなってしまうこともあったとのこと。コップのふちまで水がたまるのに20年かかり、そこからあふれ出して初めて「人とつながってみたい」という気持ちが芽生えたと言います。そんなAさんは現在、ひきこもりをめぐる講演活動をはじめ、全国を飛びまわっています。

私も変わりたい

 小学5年生で不登校になったBさんは中学卒業までの約4年半、ほぼ家ですごしました。当時について、ゲームをしていた記憶しかないと言います。Bさんの親が「不登校の親の会」にかかわるなど、Bさんへの寄り添い方が変わりつつあるなか、「私も変わりたい」とBさんは考えるようになります。

 そして、転機となったのは、テレビで観たビジュアル系バンドでした。「自分もあんなふうになりたい」と思ったBさんは、単位制の高校に進学。その後、バンドとしてメジャーデビューをはたし、現在はエステティシャンとして多忙な日々を送っています。

旅行を機に

 高校受験の失敗を機に不登校になり、その後5年ほどひきこもったCさん。ある日、弟が誘ってくれた旅行を機に「他人が怖い」という気持ちが和らいでいったとのこと。Cさんは「これぐらいならできるかも」という自分の気持ち、「その時」というタイミング、そして「旅行」という提案がうまくマッチしたと、当時をふり返ります。

 1歩を踏み出すきっかけについてCさんは「本人がこれでよいと思えたタイミングで目についたことがやる気につながり動き出すもの。そう思えるためには自己肯定感が大切で、きっかけはそこらへんに落ちている」と語ります。Cさんは現在、ひきこもりなどの若者支援に携わっています。

外側でなく内側

 3人の不登校経験者の話を聞くと、1歩を踏み出すまでの時間、気持ち、きっかけなどは三者三様です。そして、「子どもが1歩を踏み出すために、どんなきっかけを与えればよいか」と、子どもの外側にばかり目を向けてもあまり意味がないとも感じます。子どもの気持ちが安定し、「今ならば」というタイミングの土台ができていなければ、きっかけをどれだけ与えたとしても、そこへ気持ちが向くとはかぎらないからです。

 心理カウンセラーの内田良子さんは「子どもに必要なのは、雨露をしのげる屋根、枕を高くして寝られる寝床、口に合う食事」の3つと「自分の失ったものを回復する時間」であると指摘します。それらを用意し、急がず焦らない。これこそが「親にできること」であり、その重要性を3人の不登校経験者の話からも痛切に感じます。(編集局・小熊広宣)

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