不登校新聞

604号 2023/6/15

「子どもの信頼を得る」 子どもの話を聞く際に大事にすべき4つのポイント【全文公開】

2023年06月07日 16:49 by motegiryoga
2023年06月07日 16:49 by motegiryoga

 「傾聴」という言葉をご存じですか?話をただ聞くのはなく「傾聴」することで、相手との信頼関係が深まると言います。今回は傾聴を通して不登校親子をサポートする、傾聴カウンセラー・辰由加さんにインタビューしました。傾聴にとって大事な4つのポイントなどについて、お話しいただきます(※写真は辰由加さん)。

* * *

――息子さんがいじめをうけていたり不登校になったりなど、家族で苦しんだ時期があったとのことですね。

 はい。現在すでに成人している長男は小中学校時代を通していじめにあっていて、不登校だった時期もありました。小学1年で学校へ行かなくなったとき、私は「みんなは行くのに、うちの子は行かない」ということにとらわれてしまって。よかれと思って、友だちに誘いに来てもらったり声を荒げたり、学校へ行かせる方法ばかり考えていたんです。

 そんなとき、ある方に相談したら「お母さん、子どものこと愛してる?」と言われました。「愛してますよ、もちろん! だから、みんなと同じように学校へ行ってほしいと思っているんです」と答えたら、「誰がそうしたがってるの? お母さんじゃないの?」って。そう、「よかれ」は私にとっての「よかれ」。いつのまにか、子どもではなくて自分が主役になっていたんです。

 その後、長男が非行に走って家族との関係も悪化するなかで、どうにかして彼の話を聴けるようになりたいと思ってカウンセリングを学び、そこで「傾聴」に出会いました。傾聴というのは、カウンセリングの技法のひとつ。「どんなあなたでもいいんだよ」、「あなたの正解はあなたのなかにあるよ」と相手を主役にして話を聴くことで、信頼関係が構築されていきます。

 そして、話す側はすこしずつ自己肯定感を高めて、自分で意志決定をしながら前を向けるようになっていきます。カウンセラーの世界では、近親者へのカウンセリングは感情が入りすぎてしまうのでNGだとされているのですが、傾聴にかぎっては、私自身が大きな効果を感じました。

傾聴のやり方

――子どもの話をただ「聞く」のではなく「聴く」、つまり傾聴するために、具体的にはどのようにしたらいいのでしょう?

 大前提として、子どもの気持ちが閉じていたり、「お母さんには話したくない!」と言ったりするような状況では、無理に聴こうと思わないことです。「話したくない」というのも大事な自己決定。カチンとくるかもしれないけれど、あくまでも主人公は子どもだと自分に言い聞かせて、「今は話したくないんだね」と受けとめましょう。そして、「どうして話してくれないの!」と問い詰めるのではなく、「何か飲む? あなたの好きなジュースもあるよ」など、ちょっとした一言で空気を切り替えてみてください。

 「この人に話してみよう」と思ってもらえる関係性をつくるには、そんな小さな一歩をくり返していくしかありません。すこしずつ気持ちがほどけてきて、1分でも話をしてくれるようになったら、そのときが傾聴を始めるタイミングです。

 傾聴には大事なポイントが4つあります。1つ目は、子どもにとって「安心安全な場」をつくるために、聴いた話は誰にも言わないと約束すること。もちろん、その約束はかならず守ります。

 2つ目はジャッジやアドバイスをしないこと。どんな話が出てきても「子どものなかに答えがある」と信じましょう。自分で考えて話したことが却下されたり、「もっとこうすべきだよ」というアドバイスが返ってきたりすると、自分自身が否定されたように感じますよね。そうすると、その場はその子にとって「安心安全な場」ではなくなり、話したいことも話せなくなってしまいます。何はともあれ、まずはそのまま受けとめる。そのためには、親御さん自身の価値観を前面に出さず、後ろに置いておくことが大切です。

 3つ目は、子どもに「共感」しながら聴くこと。共感というのは、自分の価値観を後ろに置いたまま、子ども本人の感情をいっしょに感じることです。似ているものに「同感」があります。同感は自分の価値観を前面に出した、「わかるわかる!」という聴き方です。こちらは本当に「わかっている」のかどうかはわかりませんし、わかった気になると、だんだん「私も同じだから、わかるよ」と自分を主役にして話したくなってくるので要注意です。

 4つ目は、本人の「自己決定」を大事にすること。どんな小さなことであっても、子どもが何かを自分で決めたらバツをつけないで応援しましょう。また、何か問題が起きたときも、独断で「今から先生に言いに行くよ!」などと決めるのではなく、「あなたはどうしたいの?」とか「お母さんに何を手伝ってほしい?」などと本人に決断を委ねることが大切です。自己決定を重ねていくことで、子どもはすこしずつ自信をつけていくのです。

――明らかな嘘をつかれたり、「死にたい」と言われたりするなど、親として本当につらい場面もあると思うのですが、そういうときは、どのように聴けばいいのでしょう。

 傾聴するときは、事柄よりも感情に焦点を当てることが大切です。たとえば、子どもが嘘をついたり大げさに話したりする場合は、最初から疑ってかかったり、「また嘘ついて!」と怒ったりしないで、「嘘を交えて話すほど、わかってほしいことがある」という嘘の裏側にある気持ちにフォーカスしてください。


辰由加さん

まずは気持ちを受けとめて

 たとえば「友だちに棒で殴られて、たくさん血が出た」という話は嘘だったとしても、「それほどこわい思いをした」ということを伝えたいのかもしれません。まずは受けとめて、「そのとき、どんな気持ちだったの?」と、感情を拾っていきましょう。「悲しかったんだ」と言われたら、「悲しかったんだね」と同じ言葉を使って、同じトーンで返します。そうすると、子どものなかに「わかってもらえている」、「大切にしてもらっている」という安心感が芽生えてきます。同時に、鏡を見るように、自分の気持ちをはっきりと自分で認識できるようになり、そこから自分なりの答えを導き出せるようになっていくのです。

 「消えちゃいたい」とか「死んじゃいたい」という言葉が出てきて、慌てることもありますよね。そのとき頭ごなしに「死んじゃダメ!」と言うと、子どもが感じたことを否定することになります。わかってほしいと思って話したのに、バツをつけられたらつらいですよね。今すぐ死のうとしているのでなければ、「死にたい」の裏側にある「死にたいほどつらい」という気持ちに耳を傾けてください。そして、「あなたがいなくなったらお母さんは悲しい」、「お母さんはあなたをものすごく愛しているよ」とまっすぐに伝えることが大事だと思います。ただ、食欲が落ちていたり、眠れていなかったりするときは、最寄りの心療内科へ相談に行くことをおすすめします。

――不登校やひきこもりなどで、子どもはもちろん、親もつらい気持ちを抱えてしまいますよね。

 そうですね。でも学校へ行かないというのは、「安心領域として家を選んだ」ということ。家にいると傷つくことやヘコんでしまうことから逃げられる。そう思って、「ここにいよう」と本人が自己決定したわけです。すごい判断だと思いますよ。みんな行っている、お母さんお父さんも行ったほうがいいと思ってる。でも、自分を守るために「行かない」を選ぶ。これは、自分の命を大切にしているからできることだと思うんです。だから、家にいることを選んだ子どもにも、そんな「安心領域」をつくってあげられた自分にも、まずはマルをつけてほしいと思います。

怒りが爆発しそうなときは

 とはいえ、親御さん自身が混乱することもありますよね。たとえば、子どもに「すこし話そうよ」と言っても拒絶されると、「こんなに一生懸命やっているのに、なんなのよ!」と怒りが爆発することもあるでしょう。怒りは「第二感情」だと言われています。もともと持っている「わかってほしい」とか「わかってもらえなくて悲しい」という「第一感情」が、何かのきっかけで瞬時に「怒り」にかたちを変えて爆発するのです。できたら、日頃からモヤモヤしたらすこし立ちどまって「私、今悲しいんだな」とか「私、本当はわかってほしいんだな」などと、自分の気持ちをていねいに拾っていけたらいいですね。

 そうすると、たとえば子どもに拒絶されても怒りにはつながらず、「この子にとって、今は親を拒絶することが必要なんだな」と、子どもを主役にして受けとめられるようになってきます。そのほうが、親御さんもラクになりますよね。

 立ちどまる余裕を持つためにも、親御さん自身がひとりぼっちにならないことが大切です。ご家族でも、同じ立場の親御さんでも、カウンセラーでもいいので、否定されることなく、たくさん話せる「安全領域」を見つけてください。自分にマルをつけること、孤立しないこと。この2つはとても大切なことだと思います。

――ありがとうございました。(聞き手/編集・棚澤明子、撮影・矢部朱希子)

辰由加さん活動紹介


傾聴講座のようす

 傾聴カウンセラー協会では、傾聴カウンセリングを随時受け付け中。入門としての「傾聴講座」とその修了生に向けた「傾聴カウンセラー養成講座」も不定期で開催しています。NPO法人Smile upでは、毎月第3水曜日に皆さまの声を聴く居場所として事務所(東京都調布市)を開放。

【プロフィール】辰 由加(たつ・ゆか)
傾聴カウンセラー協会代表、NPO法人Smile up代表理事。シングルマザーとして3人の子どもを育てる過程で、いじめや不登校、非行などに悩んだことから「傾聴」を学ぶ。現在は、傾聴カウンセラーの養成にも尽力。著書『子ども・パートナーの心をひらく「聴く力」』(秀和システム)。

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