今回は山野良一さん。児童福祉司として児童相談所に勤めるかたわら、アメリカでソーシャルワークを学ぶなど、「子どもの貧困問題」に取り組んでいる。現場で感じる思いなどについて、うかがった。
――「子どもの貧困」について取り上げたいきさつとは?
1990年代当時、私は児童相談所の一時保護所に勤めていて、おもに児童虐待の問題を抱えた親子と向かい合っていました。そのころは親子関係の問題の捉え方として、心理主義的な風潮が強く、私もカウンセリングなどに力をいれていました。ところが実際に出会った家庭は経済的に逼迫していることが多いなど、さまざまな生活上の問題を抱えており、心の問題だけでは説明しきれないことが多かったのです。
一方、アメリカでは日本とは異なり、児童虐待を含め、子どもの発達と「貧困」に関する研究が多く存在します。そうした環境面にも注目してはじめて、児童虐待を含めた子どもたちのさまざまな問題の本質を捉えることができるのではないかと考え、05~07年にかけて渡米し、ソーシャルワークを学びました。そこで感じたこと、また児童福祉司という仕事のなかで出会った子どもたちや家庭についてふり返り、著著にまとめてみたいと思ったのがきっかけです。
――「児童虐待」の現状について、どう感じておられますか?
「児童虐待が増加している」との指摘もありますが、「そんなに急増はしていない」というのが私の実感です。法整備がされ、通報はたしかに増えました。しかしもともと、日本では子どもたちは虐待されてきたんです。
「嬰児殺」(えいじさつ)という言葉があります。「嬰児」とは1歳未満の赤ちゃんのことで、要するに今で言う「子殺し」です。警察庁の犯罪統計によると、「嬰児殺」に関しては現在と比べて、60~70年代のほうがあきらかに多いんです。少子化という面を考慮しても、現在での発生件数はその当時の5分の1以下です。
「虐待のすえ、子どもを死なせた」「親の外出中に火事になり、子どもが死んだ」などの事件が起きるたび、親の養育姿勢がさもひどくなっているかのような報道がされています。しかし、現在の親のほうが、明らかに自分の子どもを殺していません。むしろ、いまのほうが、愛情を持って子育てに取り組んでいると、現場にいて感じています。
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