連載「渡辺位さんの言葉」
この連載は児童精神科医・渡辺位さんが亡くなる直前まで関わっていた「親ゼミ」受講生の親の方が執筆するコーナー。不登校運動の源流になっていった渡辺位さんの言葉は、どんなものだったのだろうか。
"死んだ猫は悲しくないんです”
私は長男の「強迫性障害」の症状を何とかしたいと思って、親ゼミに通い始めた。
参加2回目の親ゼミで、父親や兄弟間の関係が悪い、暴力・神経症、自殺未遂などさまざまな悩みが出された。黙って聞いておられたその後で渡辺先生が一言おっしゃった。
「飼っていた猫が死んだんです。でも、死んだ猫は悲しくないんです」。
そしてもう一言、「悲しいと思うのは死んだ猫の気持ちではなく、死んだ猫を見て感じる自分の気持ち」と続けられた。
「?」が頭の中をグルグルまわるなかで私は思った。「でも猫は死にたくなかったかもしれないし、死にゆく自分を悲しんだかもしれない。絶対に猫も悲しいはずだ」と。
それから数カ月、ふと気がつくと、渡辺先生のその言葉を考えていた。ご飯をつくりながら、掃除機をかけながら、子どもの強迫行動を涙目で見ながら。
そのときも「もうなんでこんなに苦しんで強迫行動をする子どもに、自分は何もしてやれないのか」と、いてもたってもいられなかった。
とにかく何かしてやりたいと思った瞬間に、すっと渡辺先生の言葉が重なった。
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