不登校新聞

創刊号(1998.5.1)

【本の紹介】「『大河の一滴』 五木寛之 著」

2013年03月06日 14:58 by koguma
出たばかりの本である。「売れているのは著者の知名度ばかりじゃないね、自分も感じている事を言葉にして貰った、と思ったよ」なんて知人がいうので、本屋へ立ち寄った。三軒とも売り切れだったので驚いた。

 手に入れて一気に読んだ。五木寛之さんの「一生に一度くらい自分の本音を遠慮せず口にしてみたい」という願望が、たまたま世に出る一冊となったという人生論である。

 五木さんは、現代日本は応仁の乱前夜と似ているという。決して平和なんかではない。たとえば紛争の続いている北アイルランドで三十年間の死者が約五千人というが、日本の自殺者は一年で二万三千人、未遂や助けられた人を含めると約十万人となり、交通戦争死者一万人をはるかに上回る。著者はこの「心の内戦時代」日本における焼け跡、闇市ならぬ廃墟のひろがりを指摘する。生命の意味が感じられなくなってきていて「透明な存在」が大人たちにとっても、時代の実感を語っていると思う、と。このくだりは、ある若者達の同人誌の表紙に海岸に乗り捨てられた廃車の写真と共に「残されたものは何もない」とあったのをすぐ思い起こさせた。自らも二度自殺しようとした体験のある著者が、評論ではなく生活者としての実感をもって己れを語っているところに説得力を感じる。

 著者はいう。人生は明るく楽しいものだと思い込んでいるが違うよ、と。「人が生きるのは苦しみの連続だ、と覚悟するところから出直す必要がある。」「人は生きているだけで、いや、生きていることがすばらしいことで、親は子に、教師は生徒にあれこれ期待すべきではない。」「人間は小さな存在で 『自分は大河の一滴』 と思う。そこから始めると光がみえる」と。

 今、地獄と思っている人にほっとする一冊であり、この未曾有の大変な時代の生き方を模索している人には、生き方の手がかりを与えてくれる本である。そして私は、不登校の子たちから学んだ事と本の内容が重なった事に、同時代を生きる親近感を覚えたのである。(奥地圭子)

『大河の一滴』
五木寛之
幻冬舎(定価1429円+税)

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