不登校新聞

創刊号(1998.5.1)

【手記・子ども】学校に行かない僕から

2013年03月06日 14:47 by koguma

狭い現実しか知らなかった


 僕が登校拒否をしたのは十年以上前の話です。今の現実からはかけ離れてしまっていると思います。また、十万人以上いる経験者のひとつの体験でしかありません。それで、今にそぐわない面や特殊な感じがするかもしれません。でもそこから何らかの参考を見つけてもらえればと思い、書きます。

 今の僕にとって登校拒否は肯定的な出来事だったと思えます。そのことでいろんな生き方や可能性を知ることができました。さまざまな情報を得るのにも登校拒否経験がとても役立っているのです。友人関係も学校や会社だけの友達ではなく、幅広い世代や職種の人とつきあってもらっています。毎日が楽しいというのが今の僕の生活です。

 しかし中学一年生だった僕にとって登校拒否になってしまったことは絶望でした。登校拒否をして楽しい明るい未来があるとは思えませんでした。なぜなら、それまで僕の頭にあったのは戦中の軍隊の「生きて虜囚の辱めを受けず」ほどの重さで「生きて学校を休むべからず」というような金科玉条がありました。そんな考えに僕がとらわれていたのは、富山という保守的な土地柄があるのかもしれません。つまり先生も親もまわりも誰ひとり学校を休むことが「義務教育に反していない」とは教えてくれません。友人も学校へ行くのが当然だと思っているし、現に学校を病気でもないのに休む人はいませんでした。むしろ「義務教育だからどんなにつらくとも学校は行かねばならない」という人ばかりです。さらにその真偽をさまざまな人に会って確かめたくてもたくさんの障害がありました。内申を怖れ、部活に入っていた僕にとって、帰りは八時、九時です。それでは校則を守れば校下を超えた移動ができません。富山では夜、中学生が町を歩くだけで警察にも捕まります。それ以前に疲れてほとんど人とつきあう気力すらありませんでした。必然、僕が手にすることのできる情報は狭い地域の大人や学校か、テレビやマスコミの偏った情報だけです。その頃はマスコミは真実のみを流すと信じてもいました。時代もバブル経済の絶頂で大学生ならよい職が向こうから転がり込んでくる世相でした。反面、中卒や高卒で就く仕事は3Kと忌み嫌われるような暗い話しか流れません。学歴がすべてを決するとしか受け取れませんでした。

 それで僕は多様な世界を知らなかったのです。だから、天皇のために死ぬ軍国少年のように、僕は、与えられた情報から学校を行き抜き、よい高校、大学、企業へ行くこと。やがては企業社会のために忠実に過労死する企業少年になることに疑いもありません。それが僕の夢でした。だからこそ、学校は行くのが当然と思っていました。行かない人生は義務にも背き、企業社会での敗者としか思えませんでした。現に世間の見解として、登校拒否は病気と報道されていたのだから。たしかに登校中の僕にも学校を怠けたい気持ちはありました。でも、ずる休みを許さない風潮が生徒同士にも濃厚にあったのです。一日でも休み、再度登校すれば仲間外れになるかもしれない。それ以上に、学校へ行かないことは、夢や学生という社会的身分保障だけでなく、とりあえずいた友人関係の断絶や、また、学歴を信じていた親の期待にも背き逆らうことになります。養われざるを得ない僕にはそれは致命的と認識したのです。

 そんな学校や社会の狭い現実しか知らなかった僕が、学校へ行けなくなったのです。それまでの体験で登校拒否のデメリットを知り尽くしているのに。そんなことがわかり過ぎているのに、理屈なしに行けない。それに対して僕は解決策もなく、精神は深刻な混乱状態でした。無理に登校しても、からだが強烈な疲労感でついてゆかないのです。すべてがどうでもよくなるほどに。行きたいけど、でも行けない内面の葛藤、矛盾は気が狂うほどの苦しみでした。

 もし、中一当時の僕に学校が一つの選択肢であると教えてくれるならば、学校へ行かないことに絶望することはなかったでしょう。また、登校拒否して生き生きしている人や、学校の価値観を超えた人々がいたなら、悩みは薄かったでしょう。これから大切なのは、僕も含めてですが、OBや年配者は今を楽しく生き、また、学校以外の選択肢をつくってゆくことだと思います。それが今、苦しんでいる子へのささやかなエールにならないでしょうか。

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