不登校新聞

246号(2008.7.15)

介護から考える「ひきこもり」 下村小夜子

2014年09月04日 14:45 by nakajima_
 私は現在、大阪の実家へ帰り、父親(89歳)の入院先に通っている(今年4月に危篤状態に陥り、その後奇跡的に持ち直した)。そのため千葉での自分の生活をすべて犠牲にしなければならない。でも、そんなことにはおかまいなく父は「千葉に行っても、すぐに戻って来い」とか「まだ9時やないか。もっとおれ」などと引き止める。大正生まれの父は、家族は自分の所有物としか思っていないほどのワンマン。子どものころからどれほど納得できないことをガマンさせられてきたことか。

 息子の不登校にも無理解なので10年に一度ぐらいしか実家には帰らなかった。たまに帰っても、父とは喧嘩ばかり。父からほめられたことなど一度もない。

 今はベッドで寝ているだけの父。それだけでも入院費がかかるし、病院での世話は苦痛だ。起きあがらせるのも腰が痛くなるし、ポータブルトイレの後始末もくさくて汚い。正直言って迷惑だ。現状は気管切開をしたため、病状はよくない。最後まで和解できないまま、父とは終わるのだろう。そう思っていた。

 そんなある日、父を車いすに乗せ、ICUの中を散歩した。散歩と言っても部屋の中。少しでも変化を、と思い机のあいだを縫うように行った。そのとき、父が筆談用の紙にヨレヨレの字で書いた。「今日の散歩コースは適切であった。アリガトウ。お前がいると安心」。

 そのとき私の中で何かが弾けた。

 アリガトウ…この言葉を父から言われるとは。生まれて初めてだった。気管切開の苦しい息の中で、ヨレヨレの手で書いた、たどたどしい文字。思わず父に抱きついた。
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